2022-01-01から1年間の記事一覧

野原剛堂が世話をした富田弥平と家族たち

続き。『随筆 地方記者の生涯』には地元秩父出身の議員、荒舩清十郎、疎開に来た彫刻家、北村西望との関はりも記される。しかしここで特に注目するのは、富田弥平に関する記述。 彼は学校卒業後大隅公爵の用心棒となり或は台湾総督田健次郎の食客となり後大…

野原剛堂が信奉した行者、村松健治

『随筆 地方記者の生涯』は野原剛堂著、発行者不明、昭和44年12月発行。本名は野原広仲。明治21年12月生まれ。大正3年4月から埼玉新聞秩父支社長を務め、朝日新聞、産経新聞などの通信員も兼務した。 雑誌の埼玉民論、大秩父などを発行し、秩父に…

山本初太郎を頼った、はれやか本舗の中島虎雄社長

続き。借金のため、友人知人、初対面の人、文化人を訪ね歩いた山本初太郎。出会った人々を実名で書いた原稿千数百枚を平凡社の下中弥三郎に持ち込んだ。出来栄えを褒めながらも、すべて実名であるため、金庫の奥深くにしまはれてしまった。次に菊池寛の手に…

頭山翁「坊主が政治家になるというような料簡は困りものじゃよ」

『実録 文芸春秋時代』は山本初太郎著、原書房。1巻が昭和42年4月、2巻が同年5月刊。序はそれぞれ小島政二郎、白井喬二。 文芸春秋社の社員の派閥争ひや出世競争、内紛、事件など内幕を暴いたものではなかった。予想とは違った。田舎の文学青年の著者が…

上村直の漫談読書学

『工程』臨時号は昭和12年5月発行。百田宗治の椎の木社発行。小さな新聞のやうなものが8ページ、そのなかに紙1枚がはさみ込まれてゐて、その表裏が9、10ページ目にあたる。 野瀬寛顕「日本教育統制の原理」、高須芳次郎「日本的なもの」など真面目な…

品田俊平「予の無上の楽しみは世人を去苦楽にするにあり」

『嗚呼心教々祖大扇下』は静岡県の不二大和同園発行、昭和10年8月発行の非売品。明治38年に心教といふ団体を興した、品田俊平を没後に追慕して作られた。扇下といふのは心教での敬称。 品田俊平は明治6年6月、新潟・柏崎生まれ。上京して山口三之助、…

碓氷元「マスクをとれ」

『第一線人の健康法』は碓氷元著、狼吟荘発行、昭和15年10月発行。歯科医の著者が、有名人たちを訪問して健康法を聞き回ったもの。書誌データで他人と混同されてゐるものがあるが、碓氷は安政3年9月生まれ、昭和15年6月没。訪問先は軍人が多い。食…

日本酒道会の全国酒祭

「全国酒祭 次第」と題された印刷物。昭和9年9月24日に日比谷公園で、日本酒道会が第1回の全国酒祭を開催するといふもの。日本酒・道会ではなく日本・酒道会の意。 酒の神京都松王神社神官を聘し太陽教団総務妙義山神社内山社掌祭主となり、凡て我国古…

溝口駒造「神道は風邪を引き込みはしないだらうか」

神田古本まつりが3年ぶりに始まる。本来秋のものを春にする。甘酒はないけれど。神保町には以前から出版社も多い。神保町2の4にあったのが新生堂。河本哲夫がキリスト教関係のものを主に出してゐた。 『宗教思潮』もその一つ。2巻4・5号は昭和11年5…

中村有楽「自分の信ずる通りに進まなければ駄目ではないか」

『無遠慮のすゝめ』は中村伯三、北郊文化発行、昭和59年2月発行。東京都北区の桐ケ丘団地で発行された『北郊文化』の創刊15周年を記念したもの。書初会や旅行などとともに、古い昭和時代の人物や雑誌の写真が掲載されてゐる。表紙には著者の12歳当時…

井上義光「教育勅語は宗教である」

『教育勅語禅の鼓吹』は井上義光著、広島県の忠海禅学会発行、昭和10年10月発行。序文は文部省督学官の近藤壽治、西晋一郎、紀平正美。 自序で著書の意義を次のやうに述べる。 教育勅語を宗教と断定したる者は恐くはあるまじ。先人未発の態度と云ふべし…

岩波茂雄「迷信の絶滅は焦眉の急務である」

『科学ペン』三省堂発行、昭和11年11月号は第1巻第2号。迷信邪教批判特輯。 伊東忠太は方位家相について、森田正馬は宗教に関する迷信についての文章を寄せた。「迷信を斯く見る」と題したものは諸家からの短文回答。A 新聞雑誌の九星欄に対する感想 B…

勅語の浄写をする花田仲之助

『花田仲之助先生の生涯』は花田仲之助伝記刊行会発行の非売品。昭和33年10月発行。函。刊行会は東京の中村四郎方に置かれた。中村は東京報徳懇話会代表。 花田は玄洋社社員らを組織して満洲義軍を起こしたことが知られるが、軍務を終へたのちの社会教化…

変はり者の島田整美堂の改心

『商店之友』は大阪の島田整美堂発行。第70号は大正6年8月発行。現在は隔月刊だが、ゆくゆくは月刊にしたいといふ。裏表紙には 世間並を外れた、変り者を以て評判の島田整美堂は、自己の利益を望まずに、御得意様の為に尽します、 とあり、その理由を説…

耳学問をすすめた荻昌朗

『耳学問 聞きかじりをモノにする法』は荻昌朗著、日本経済新聞社、昭和47年4月発行。日経ノウハウ・ブックスの一つ。 著者は大正12年生まれ、日本放送協会資料センター主査。著者略歴によれば「話のおもしろさは天下一品。これすべて〝耳学問〟の成果…

福良竹亭を訪ねてうんざりした城戸元亮

『碧山人 自叙 城戸元亮小傳』は発行所などを示すものなし、あとがきは昭和42年10月。本文40ページに写真、年譜などがつく。毎日新聞社会長を務めた城戸元亮の自伝的な文章を集めたもの。『日本談義』『五十人の新聞人』『動向』などのものを収録。短…

寺田稲次郎「こんな世界から、一日も早く脱出しなければならない」

『荒野に骨を曝(さら)す』は杉森久英著、光文社、昭和59年1月発行。書名に添へられた歴史・ドキュメントノベルといふのは、実際の歴史に材を取った小説。目次には「英雄と好色」「革命家の息子」「千島探険の勇者」「爆破行」「荒野を駆ける」「国士への…

千楽集に見る本のたのしみ

『千楽集』は昭和16年4月発行の非売品。幕末の歌人、橘曙覧の連作「独楽吟」に倣って作られた。独楽吟は「たのしみは」で始まる和歌を並べたもので、後世にも読み継がれた。 同志らが集って、千楽会を組織。「人の世の悲みと、憎みと、怒りと、恨みとをし…