『耳学問 聞きかじりをモノにする法』は荻昌朗著、日本経済新聞社、昭和47年4月発行。日経ノウハウ・ブックスの一つ。
著者は大正12年生まれ、日本放送協会資料センター主査。著者略歴によれば「話のおもしろさは天下一品。これすべて〝耳学問〟の成果とのこと」。新聞切抜資料の研究もしてゐて、切抜100万枚のファイルもあるといふ。会社や団体の図書館・情報室の職員たちのサークル、「情報資料研究会」にも所属。図書館界の異端者がそろひ、創立10周年を迎へたといふ。
著者の立場は、活字情報も大事だが、それだけでは不十分。限られた時間を有効活用するためにも「耳学問」の重要性を認識すべきだといふもの。活字を無視していいわけではなく、活字と音声情報それぞれの種類や特性を見極める情報整理術が大事だといふ。
マイカーを運転しながら、満員電車にゆられながら、カセット・テープやトランジスター・ラジオによって新しい情報を得る。喫茶店で友人とお茶を飲みながら情報を交換する。講演会やセミナーによって知識の領域の拡張をはかる。われわれが耳学問によって知識を得る余地はまだまだ残されている。
取り上げる対象は日常会話、ラジオ、テレビ、カセット出版、電話相談、図書館のレファレンスなどさまざま。カセット出版やソノシートなど、現在ではみられないものも論じられてゐるが、YouTubeやスマホ全盛の現代に示唆に富むものもある。
情報の道具論では、知的生産のためには書斎を持つべしと訴へる。一室まるごとが難しければ、部屋の一角だけでもいい。週に一日、ホテルで本を読んで書斎代はりにすることも紹介してゐる。
各種の電話相談の番号も載ってゐる。いのちの電話の次に、「バカヤロー電話」といふのがある。
現代社会に対する不満や怒りを、電話機に向かって「バカヤロー」と怒鳴ることで発散しようというわけ。
これも身の上相談の一種らしい。