上村直の漫談読書学

 『工程』臨時号は昭和12年5月発行。百田宗治の椎の木社発行。小さな新聞のやうなものが8ページ、そのなかに紙1枚がはさみ込まれてゐて、その表裏が9、10ページ目にあたる。

 野瀬寛顕「日本教育統制の原理」、高須芳次郎「日本的なもの」など真面目なものから始まって、後ろの方はやはらかい読み物になってゐる。

 植野千秋が「現代珍学校巡り」を書いてゐる。漫談学校は井口静波が校長で、菊池寛が名誉校長、西村楽天柳家金語楼、高田稔が講師。漫談に嘘や出鱈目は禁物だと指導してゐる。浪花節学校は校長東家楽燕、顧問頭山満浪曲のほかに修身、国語、地理、歴史なども教へる。花嫁学校は生け花、音楽などのほか、亭主操縦法、ヤキモチの妬き方などの講義もある。学期末の試験問題は「主人に他の女が出来たときは、どうすればいゝか」などが問はれる。

 上村直が「漫談読書学」を書いてゐる。普通の読書ではない。読書でさへなく、本の取り扱ひ方を面白をかしく列挙する。「自己紹介法」。哲学などの高尚な本を見せびらかすこと。

女の子の注意を一身に(いや一本に)集め、(略)ひいては恋愛をし、ひいては誘惑し、ひいては結婚しといふテである。

 電車や喫茶店などで小難しい本を抱へてゐれば、その本に女の子が注意を引かれ、(略)ひいては結婚もできるといふ。

 「立読法」。雑誌の連載小説などは立ち読みが経済的。辞書などは分からない字をメモしておいて、あとで立ち読みして調べればいい。「辞書など買ふのはコケの骨頂」。「食読法」。新聞や雑誌を食べもの片手に読むこと。本、書籍とは書いてゐない。「ペラペラ法」。ペラペラめくっただけで本棚にしまふこと。「一種のヘンタイである」。「マルメル法」。雑誌や新聞はまだしも、厚い本も丸めてポケットに入れる。

 買はれたり買はずに済まされたり、結婚の手段になったり丸められたり。

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