太田脩三「形なき児を愛せよ」

 『形なき児を愛せよ』は太田脩三著、横浜の古泉洞出版部発行、昭和14年

6月発行。題字は山本英輔、大久保忠春、序文は松平年正。

 書名だけでは内容がわからない。この本の趣旨は、自分よりも優れた子孫を後世に残さうといふもの。これこそ人間の使命であり、祖先への報恩であり、国家への最大の忠義であると訴へる。

 ところが世間一般では、子供が生まれてから教育の方法について考へる。近頃は胎教も盛んだが、それでも遅い。もっと早く、子供がまだ形を持ってゐないうちから、より良い子孫の残し方を意識すべきだ。よい男女が結婚し、子孫を残すべきだ。著者は、この無形愛児運動を熱心に推進してゐる。山本英輔の題字も無形愛児の4字。

 津田光造の労働者訓練所でも持論を展開した。「この中に相当顔面の型の曲つてゐる青年が見受けられましたから、この青年達を呼び出して注意を与へました」「諸君の使命は、真に形なき児を愛する重点はこの曲つた顔を正して真直な顔の子供を造るべきであります」

 人間の心が顔に現れる。善悪や賢愚は顔を見ればわかる。著者はこれを天書と言ってゐる。

 よい子供をつくることを奨励すると同時に、悪い子供をつくらないやうにすることも大事だと主張し、断種法の制定も唱へる。

 悪い子供を生んで一生苦しみ社会にも迷惑をかけるやうならば、始めから妊娠せぬやう注意することです。

 手元の本には、無形愛児報国会の趣意書が挟まれてゐた。昭和14年7月付。本には全く記載がない団体。4ページで、最終面はこの本の広告。「一家一冊必備の人生聖典」を謳ってゐる。趣意書では日本の将来を憂へ、会への参加を呼び掛ける。

無形愛児思想とは生れながらに日本精神を保有したる国民を造ることである、忠良なる 陛下の臣民として光輝ある日本国民の一人として衷心より感恩拝謝する国民を造ることである要するに心身共に親より優れた子孫を遺す思想である。