裏口からソット逃げ出す坂井杉三郎

 『あなたの明日をつくる接客理論』は坂井杉三郎著、昭和37年3月第2版発行、国際理容協会出版部発行。坂井は明治43年2月、京都生まれ。昭和4年から亡父の後を継ぎ理容店を経営してゐる。理容関係の役員、特別講師などを務める。

 接客理論といふと堅苦しいが、実際は接客の心構へ、来店者の心理、理想的な店舗などについて分かりやすく解説したもの。特に女性心理についての持論を12章にまとめたものが目を引く。

 「理論的より気分的」「積極的協調心に乏しい」「仲間のあいだ(同性・同職・同級)で反目し易い」「小さい事を気にする」「おしゃべり」などが女性の特徴だといふ。

私がこれを黒板に書きますと、「随分失礼しちゃうわ」とか「まアヒドイ」なんて、聴衆の中の女性から不平が飛びだすことが多く、帰りには、裏口からソット逃げ出さないと、生命の危険に関すること等も御座いますが、私は、その時、いつも次のように説明します。

 女性は男性から見ると、つまらないことを気にしたり、ささいなことをいつまでも覚えてゐたりする。接客に際してはこのことをよく心得て、女性からの評判をよくすることが大事だと強調する。女性は虚栄心が強く妬みが強い。他人の衣服やアクセサリーをいつも気にしてゐる。接客するときはそれを逆手に取り、女性には年よりも若く見えるとか、顔、声、様子、髪型、衣服など、虚栄心を満たすやうに褒めることが大事だと説く。

 男性は10年ぶりに会った兄弟でも2、3分で話の種がなくなる。ところが一般に、女性はおしゃべりで話題が豊富で尽きることがない。接客する側としては、これを煩はしいと思ってはいけない。女性のおしゃべりな性格を利用して、店の良い評判を多くの人に伝へてもらふやうに日頃から心がけるべきだ。

 「強情で嘘が自然」といふ項では、新興宗教の開祖に女性が多いのも、神の声を聞いたと思ひ込みやすいからだと推測してゐる。