苦学納豆の大瀧龍五郎「金と学問とは全く別問題である」

 『苦学納豆』は12ページのパンフレット。大正4年1月、躬行社発行。大瀧龍五郎が東京市四谷区愛住町に設立したのが躬行社。小学校卒業者に労働の機会を与へ、学資とし、勉学の道を授ける。

 具体的には納豆の販売をさせる。14条にわたる社則も載ってゐる。第9条にはかうある。

社生ハ社主ヨリ授クル労働ヲ尊崇シ忠実熱誠事ニ当ルベキモノトス但シ一日三四時間ノ労働ヲナサシム

 短時間のアルバイトのやうで、8条には「学技修習ニ要スル費用ハ全部本社ニ於テ是ヲ負担」、寄宿舎も準備中で、完成したら精神修養の講授もする予定だといふ。

 「躬行社設立趣意書」は学問の尊さを謳ひ、金がないから学問ができないといふ不幸をなくさうと、力強く訴へる。

親が其の子に学問をさせたいと望んでも金がなければ学問が出来ぬやうな事になつて、一にも金二にも金と言ふ世の中になつて来ました、併し能く能く考へて見れば金と学問とは全く別問題である、

 金がないために俊才が世に出られないといふことは、個人の問題のみならず国家的な大問題であると説く。

単に其人のために悲しむべき事ばりか[ばかり]でなく実に国家の大損失である、即ち一個人の問題にあらずして実に国家の大問題であります、学問は決して金で買ふものではない只心で得るものである

 社の事業として採用するものとして、例へば化粧品は利益が大きいが、贅沢品なので人を虚栄心に陥らせる。その点、納豆は地味だが栄養も豊富で、最も適当だと推す。

苦学納豆は日常の副食物として又衛生食物として日本の食用には必要欠くべからざるものです

 沢村真次、岡崎桂一郎、武藤留之助の諸学者が、納豆の栄養や有用性を強調してゐる。

 

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