関東大震災から立ち上がった文雅堂の所国松

 「成功者立志編 附自力甦生道』は帝国勤倹奨励会発行、昭和8年5月発行。渋沢栄一ら立志伝中の人物22人を取り上げたもの。星一の見出しは「昔は貧乏の古本屋」。大阪朝日新聞の高橋健三や編集部員から300冊を得て、米国留学費にした。

 全体にぼんやりしたつくりで、本文では「明治大正 成功者立志伝」。これは30ページで、次に関東大震災の復興記「焦土より奮ひ立つ」が43ページあり、こちらの方が長い。さらに貯蓄奨励の文集が15ページついてゐる。

 「焦土より奮ひ立つ」は逸話集で、菓子の清月堂主人、水原嘉兵衛が京橋区役所に1万円寄付した話、越中屋米店の山崎松壽の母が震災後、へそくり1300円を子供に提供した話など20編。

 その中に「裸一貫から三階建 苦心の四十万円を煙にして復興した本屋さん」がある。文雅堂書店の所国松(当時39)に取材したもの。神保町から飯田町に引っ越して数日後に震災に遭遇した。大阪の兄の1000円と親族の見舞金を合はせた2000円で復興。7年間で3階建ての印刷工場に50余人の職工を抱へるまでになったといふ。

 兄の名は定一郎とあるが、『出版人物辞典』には所貞一郎として立項されてゐる。

 

 

・拙詠3首を得たり。

あらたまのとしをむかへてゆたかなるこゝろつかのまゆふになゐふる 

あしたにはよのたひらぎをいのりしをひのかたぶきてなゐのおそへる

よもすがらよせてはかへすみゝのそこよいおとしをとはづみたるこゑ