吉澤貞一「整理していないラベルはただのガラクタ」

 「手のひらのメディア 吉澤貞一マッチラベルコレクション」は千葉県立中央博物館の展示。会期残り僅か。

 「第一章 マッチラベルを集めた人たち」はマッチラベル収集家、吉澤貞一の紹介。千葉・旧成東の出身で慶応の学生時代から収集し、総数70万点といはれる。海外とは文通で交換し、外国のラベル本を一冊手書きで翻訳するなどの情熱を傾けた。

 「第二章 マッチラベルことはじめ」。明治初期のラベル。仏壇などに使用する火は火打石だったので、マッチを使ふのは抵抗感があった。そこで神仏用の浄火であることを示す文言が印刷された。人気のデザインにはそっくりな類似品が出回る。会社名が書いてあるかどうかで見分けるが、展示担当者も間違へるくらゐ精巧につくられた。

 「第三章 マッチラベルに描かれた生きものたち」。クマの剥製、エビ、カニの標本が並ぶ。ラベルに描かれたいきものを生物学的に同定する試みがユニーク。分類不能の、イメージの中にしかゐない謎ガニだと専門家が指摘する。

 「第四章 マッチラベルから世相を読む」。日露戦争の後、日本一、世界一、東洋一など「〇〇一」のラベルが生まれる。昭和の一時期、「健康」が流行語になり、観光地や旅行関係のラベルに多用される。防諜など戦時スローガンのものもある。

 終はりに吉澤氏の写真パネルがお見送り。「整理していないラベルはただのガラクタ」と、ただ集めるだけではなく整理の重要性を教へてくれる。

 実物のラベルは小さいが、壁面には大きく引き伸ばされたパネルが大量に展示されてゐるので壮観。中央のケースには「大元帥」のラベル。明治天皇を指すので不敬だとして発売中止になったはづが、ごく少数出回ったもの。

大型スクリーンが左右に2つあって、展示しきれなかったものが上映される。4秒ごとにどんどん入れ替はる。これも大きくて見応へがあり、座って見られる。人力車に乗った猫とか、千葉の稲生書房のものもあった。

 満足して帰らうとしたら、第二会場の案内があった。これが「第五章 マッチラベルを通してみた盛り場」。1枚のチラシでは「第五章 マッチラベルいろいろ」で第六章が「~盛り場」だが、4ページのリーフレットでは全五章になってゐる。

 その第二会場、博物館とは思へないやうに妖しい。モダンな女性たちが門の形にコラージュされ、入り口には黒い暗幕が垂れ下がってゐる。文化祭の一角のやう。

 中の壁面にはカフェーのラベルのパネルがたくさん展開されてゐた。デザイン的に面白いものばかりで圧倒される。タイガーは店名の通り虎の絵で、何種類もあるがやけに力が入った描き込み。女性の写真をそのまま印刷したものもある。「悪の殿堂 お兄ちやん」「オバサン」など店名を眺めるのも楽しい。

 図録や本にする予定はないさうなので、第二会場分だけでもどこかで出版してほしい。