鹽谷不二雄「読書の前には二、三十分の休憩が必要」

 読書の秋なのでたまには本でも読まう。でも本を読むと疲れてしまふ…。そんな人には鹽谷不二雄「読書しても疲れぬ法」『健康時代』(健康時代社、昭和11年7月号)。

 長時間の読書には目を大切にしなければならない。眼に異常があれば眼科医に眼鏡を選定してもらふ必要がある。眼と本を平行にするために、見台を使ったり机を斜めにしたりしなければならない。部屋を明るくし、光線は自分の影が邪魔をしないやうに、左上からくるやうにする。少し暗くなっただけで物が見えにくくなる夜盲症はビタミンAが欠乏してゐるので、青い野菜などを摂るのがよい。

 やっと本題に入る。

 読書の疲労を防ぐには、食事や入浴、劇しい運動等の直後には避ける方がよい。かやうな場合には、血液は胃や皮膚筋肉に集中して、脳には比較的血液が欠乏してゐるから、疲労を招き易い。

 従つて、長時間の読書に取りかからうとする場合には、二三十分休憩してからがよい。

 すぐに読書するのではなく、二、三十分休憩してからがよい。心労があったり喧嘩をしたりして興奮した後には、散歩などで落ち着かせてから読書をするため、やはり二、三十分必要になる。

 読書には心身の安息が重要だと説いてゐる。そもそも読書のときにすぐ疲労するのは、病気と関係がある。頭痛や肩こりが起こるのは、神経衰弱症の場合が多い。ほかの病気のこともあるので、医師の診察を受ける必要がある。

神経衰弱症の傾向ある人は、おもしろい本だと思ふと、初めからひどく亢奮してかかる為にかへつて早く疲労してしまふことがある。(略)長時間読書を続けようと思ふならば、冷静に始める必要がある。

 面白い本だと興奮して疲れやすくなるといふのだが、どうも賛成できない。面白い本だと夢中になって、疲れも忘れるやうになるのではなからうか。

 読書で疲労しない方法として最後に強調してゐるのが、習慣化のすすめ。毎日でも週一日でもよいから読書をする。さうすればいつものことだから、苦にならない。読書も練習で上達するものだと述べてゐて、これはうなづける。

 十大黒焼療法の記事は服用者の体験談。目次では実名のやうだが、実際は(仮名)。どれも文末に一三六頁参照とあって、そこを開くと代理部の広告になってゐて、各種の黒焼きが買へる。猿の頭、栗のイガなどは1週間分50銭。一番高いのは狐の舌で1円5銭。この雑誌が1冊30銭なので、ものすごく高いといふほどではない。何週間分もまとめて買ふものなのかもしれない。