新井由郎「神社のスタンプ、十銭は高過ぎる」

 過熱する御朱印ブームで転売が問題になってゐるが、良い点もある。最近は御朱印帳を入れる御朱印帳袋も各地で売られてゐる。巾着型・財布型・鞄型などがある。神社と寺院用と2冊入れるためか、大抵大きめに作ってある。布製で御朱印帳よりも値段が高いが、本や雑誌を入れると小粋だ。 

 『神社と社会施設』は昭和13年7月9日発行。発行所は奥付・広告では皇典社臼井書店、裏表紙では臼井書店。所在地は神保町二丁目五番地。発行者は臼井完次とある。著者の新井由郎は経歴不詳。書名も目次も地味だが読んでみると違和感を覚える。書き方が馬鹿に丁寧なのだ。
 例へば「近頃流行のスタンプ」に触れた箇所。御朱印はここでは社印とされ、スタンプと区別されてゐない。

此の社印、スタンプの押し代だがお志はよくない。神社のことであるし明記しておくのもどうかと思ふがさりとてお志と言ふのは亦押して貰ふ方で困る。十銭を出しても五銭を出しても黙つて受取る。内心五銭のつもりで五銭の持合せがないから、十銭出しておつりを貰ふつもりの処一向おつりが貰へさうにない。さりとておつりの催促も出来ず。あんなのないよといふ話を時々聞く。やはり御神符などと同じに一ヶ五銭ならば五銭と余り目立ぬ様に示しておくがよい。整理やら手数にて只とは行かぬが五銭位がスタンプの押料としては適当だらう。十銭は高過ぎる。

 神社でスタンプを押すとき、値段がはっきり書いてないので困る人が居るといふ。神社側は「お志で」といふけれども、それだとお釣りを請求しにくい。著者は十銭は高いので五銭が適当だと提案する。痒いところに手が届くといふか、実務的過ぎるといふか、全編この調子で丁寧に神社の現状と課題を述べてゆく。
 絵葉書も日に焼けてゐるのは取替へるべきだとか、七五三は混むから昇り口と降り口を別にした方がよいとかと続く。
 「神社と図書館」の項目でも、境内に設ける図書館(室)についてやけに詳しく提案する。

お互に普通の日は他の仕事で忙しいから、大体午後からとし、主として夜に閲覧させる。そして午後九時とか十時とかと時間を限つておく。特に日曜日とか祝祭日とかは終日朝より閲覧せしめる様にして置く。

尚子供の時間大人の時間、或は男女別の時間とこの種の時間割日割りも必要である。そして各その時間の役当てを決めておく。準備、閉館後の掃除、等凡て図書館に関する限りの雑務を担当する。図書の種類については神職が選択して極めて適切と思はるゝものを成るべく広く集める。

 開館は平日とそれ以外で短くしたり長くしたりと工夫する。その方が無駄な暖房費もかからず良い。雑務は利用者に役を割り当ててやらせる。大人と子供、男女で時間を分けてもいいといふ。
 特に田舎ではかういふ施設が必要だと語り、神社が新知識の吸収や普及に貢献すべきだと論じてゐる。