山口二矢を演じた神野猛

 『漫画夢の博物誌』は東京三世社発行。第3号は平成2年5月発行。隔月刊。

 表紙・巻頭カラーは山田彰博「おぼろ探偵帖」。ろくろ首や泉鏡花が登場する。日野日出志「赤い目のネズミ」はネズミの祟りで右目が破裂するホラー。目次では日野目出志と誤植。

 衣谷遊「ドラマチックリベンジャー」は裏表紙では「人間心理を鋭く描く!!」といふ謳ひ文句。この漫画はドラマシリーズの制作発表会の場面から始まる。題名は「テロ!」。第1話は「十七歳の暗殺者」。壇上には浅沼稲次郎役の大御所、牧彦造、少年役の新鋭、神野猛や監督たちが並んでゐる。山口二矢といふ名前は出てこない。番組は浅沼暗殺を再現したもので、毎日新聞のカメラマンが撮影した決定的瞬間も忠実に漫画化されてゐる。神野の出演には思惑があった。決行直前のセリフにかうある。

あんたの望み通り

こいつは歴史に残る

大傑作ドラマに

なるだろうぜ

 

なんせ 天下の牧 彦造が

この虚構の殺人劇の中で

………

 

本当に死んじまうんだからな!!

 神野は女性問題で牧に恨みを抱き、その復讐を果たさうとしてゐたのだ。扉のコマに「鋭いタッチのアクション作家」とある通り、神野の鋭い眼光が印象的。

 

 

 

筒井清忠『近代日本暗殺史』(PHP新書、令和5年7月)読む。明治編と大正編からなり、明治編では主な暗殺事件を取り上げる。簡にして要を得た筆致で明治の特徴や世間の反応を描く。ここまではいはば前置きで、大正編の朝日平吾、中岡艮一の両事件が質量ともに厚い。中岡については政治的動機が薄く、印刷所の女性や莫連女との問題や懸賞脚本落選の失意が事件の背景にあったことを論証してゐる。