お餅を毎日食べる大妻コタカ

 『人生創造』は人生創造社が発行する、石丸梧平の個人誌。第171号は昭和13年4月発行の臨時増刊。

 石丸は困ってゐた。3月号が大槻憲二の「恋愛・性欲の分析処置」により禁止・削除になってしまったから。「全く意外」「これはまゐつた」。

経済的にも困るし、又、世の常識家から、人生創造はいけない雑誌だと思はれることが雑誌発展の上に大きい打撃となるのである、これで二度目なので全く困つた。

 大槻の意見を聞いて真面目に熱心な態度に感謝する一方、内務省検閲課の意見にも同感せざるを得ない。こんな時こそ積極的になるべきだと奮起し、4月号のほかに臨時号を出すことにした。それがこの号である。

 ――石丸はそんな事情を編集後記に3段と2段の2ページにわたって綿々と綴ってゐる。自身は150枚の原稿を書き上げ、「健康長寿の哲学と実践」「食の健康と性の健康」、大槻は「長寿法としての精神分析療法」などを寄せてゐる。

 「諸名家の健康法」といふ葉書回答集も載せた。その意義も編集後記に書いてゐる。

皆極めて短いものだから、もとより講述ではない。しかし甚だ体験的で面白い。一見何でもないことだと思ふやうな文でも、その人の職業、その人の年齢、思想と云つたやうなものを綜合して味つて見るとなかなかに面白く、又教へられるところが多い。

 回答を見てみると、最初は岩波茂雄。岩波は健康に注意するやうになり、美食・暴飲・暴食の三Bから粗食・少食・咀嚼の三Sに転向した。岡本綺堂は20年来の不眠症。午後11時に寝床に入り、4、5時間瞑想するので入眠は午前3、4時になるといふ。

 今泉定助は箇条書き。

休息 朝から晩まで殆ど休息なし

運動 一年に一度禊をする

睡眠 大抵五時間 

 文久3年生まれで高齢の筈だが忙しさう。禊はむしろ一年に一回しかしないのかと少ない気もする。睡眠はショートスリーパーなのか。

金子白夢は驚愕の健康法を披露する。

一日一回、永い間十分間位ポカンとして無我の心状になつて「天空」を眺めて居ります。私は之をポカン術と称して居ります。お蔭で頭髪が大部分禿げて居り、中央部は一本もなかつたものが、今は青年のやうに発毛しており升。

 ポカン術で毛がフサフサになったと主張してゐる。

 大妻高等女学校長、大妻コタカは一年中毎日欠かさず、お餅を毎朝少しづつ食べる習慣だといふ。

このお餅はお正月などで宅に有ります時はそれを用ひますが、その他の時はお餅屋さんから少しづゝ毎日配達して貰ひます。私がこの激務に堪えられますのも此のお餅のしんねり強さから来るものと思はれます。

 激務にはお餅。