中屋健一「あたら一生を棒にふるようなことも」

 続き。『漫画読売』には他にも「ブンヤ・シリーズ」として、新聞にまつはる文章がまとめられてゐる。「婦人記者奮戦す」は鷲尾千菊の回顧記事。挺身隊になるのを逃れるため、仏教新聞社で宛名印刷や整理として働いてゐた。「仏教界のイザコザやら何やら、一向に私には興味のないものだった」。読売に移っても整理をしてゐたが、カスリーン台風の時には取材を手伝ひ、被害の絵図を描いて新聞に掲載された。明治からの婦人記者を振り返る一節もある。

男女同権が物めずらしく、口やかましくいわれた昭和二十二、三年ごろですら、応募してきた婦人の履歴書を「これは女じゃないか」と一言のもとにはねのけようとした例がある。

 原四郎本社編集総務は「新聞のウラ方」を書いてゐる。新聞は記者だけでは作れない。整理や調査資料部など、ふだんは日の当たらない「新聞の虫」の生態を描く。記事をレイアウトする整理はどの記者よりも早く出社し、遅く帰る。「そしてちょうど、一と仕事終えた泥棒のように、朝とともに眠りにつくのである」。調査資料部は新聞のスクラップを作る部署。個人の記事、スリの記事、訃報の記事など、各人の切り抜くテーマが決まってゐる。

朝から夜中まで、机の前に座って、せっかく同僚が苦心して作り上げた新聞を細々に切ってしまう。(略)この男は自分の女房が長男を生んだ時も、十二人目の女の子を生んだ時も、同じように黙ってただ死んだ人々の記事を切り抜いていたのである。

 そのほか、中屋健一が「近ごろ学生分類学」を書いてゐる。学生の気質を「白紙委任」型、「テープレコーダー」型などと名付ける。「私有財産制否定」型の典型として、他人や図書館の本に書き込んだりページを破ったりする例を挙げる。

極端なのになると、借りた本を借りなかったと言い張って、古本屋に売飛ばした学生もある。(略)心なき学生に本がこのように取扱われるようになったのは、やはり戦後のことである。

 「太陽族」の女性についても触れてゐる。

彼女らは結婚という永久就職を狙う。狙われる男性は、大体において大学院学生あたりである。(略)折角、一生懸命に勉強している有為の学者の卵は、つまらない恋愛沙汰で、うっかりするとあたら一生を棒にふるようなことも起りかねないのである。

 この文章の下に、一コマ漫画が添へられてゐる。大学院に向かふ眼鏡の男性。そのそばで眼光鋭い女性が輪っかを振り回して、彼を捕獲しようとしてゐる。足元には十字に縛ったテキストらしき本が転がってゐる。