森秀男「ここまで狂信的になってしまったら処置なしです」

 『村の迷信』は森秀男著、全国農協婦人組織協議会発行、昭和34年10月発行。生活改善シリーズの一つ。地味な書名と表紙だが、実は世間にはびこる迷信をバッサバッサと斬ってゆく快著。

 お地蔵さんなどを撫でると、その部分の病気が治るといふ伝説があるが、それは科学的には間違ってゐる。

お地蔵さんの目にこのばい菌を殺す強力な抗生物質あるいは、強力な殺菌剤のような物質を眼から分泌してくださるとでもいうことがあるのなら、なおることも考えられるでしよう。けれどもそれどころか、お地蔵さんの眼にはあらゆる眼病のばい菌がいっぱいついているに違いありません。(略)お地蔵さんをなでたりしなかったら、もっと早くなおっていたに違いありません。

丙午の年に生まれた女性は家庭不和の原因になるといはれて、自殺したり結婚できなかったりすることがあった。明治39年生まれの女性は昭和初めに結婚する年頃になり、悲劇が起こった。次は60年後。

この次は昭和四十一年頃に生れる女の子が丙午になります。その人達が結婚年令に達するのは昭和六十年以降のことですから、その頃までには、いくらなんでもこんなばかげた迷信もなくなってしまうでしょう。二度とこんな悲劇はくりかえしたくありません。

 迷信には新しく生まれるものもある。戦後、ある教団では化学肥料や農薬を使ふことを禁じた。

その結果減収になることは当然ですが、しかし、その田の所有者は「化学肥料や農薬を使わなかったからこの軽度ですんだのであり、使ったら大変なことになったであろうに」といっているそうで、まことに始末が悪いことです。ここまで狂信的になってしまったら処置なしです。