火星からのスパイ、火野星平

 『別冊 漫画読売』は読売新聞社発行。第4集は昭和31年9月発行。一コマ漫画、四コマ漫画、連続漫画、イラストと文章などさまざま載ってゐる。三島由紀夫の随筆や石原裕次郎の座談会などもある。

 「空想小説 ぼくは火星人」の作者は横山隆一。大きな学生帽がトレードマークのキャラクター、フクちゃんの生みの親。フクチャンはほのぼのした内容だったと思ふが、こちらはまるで違ふ。火星人を描いたSFだ。

物体ぼくは最も進化せる頭脳細胞のカタマリで、円形をなし、手足はない。およそ二十センチぐらいの球と思えばいい。

 手術をして地球人と同じ姿になり、日本にやってきた。名前は火野星平を名乗った。前任者と交代して、スパイ活動をする、といふ。挿し絵でそれぞれの姿の彼が描かれてゐる。

 特集は「宇宙七つのナゾ」。ロケット工学の糸川英夫博士ら6人から話を聞いた漫画家たちによる漫画漫文を集めてゐる。真面目な科学解説かと思ったら違った。こちらもSFといっていい。岡部冬彦は「火星のヒミツ」。ときは西暦2251年。新聞社勤務の主人公は、火星の親玉に会ってインタビューをするといふ。果たしてその正体は?

 荻原賢次「銀河系宇宙の最期」には宇宙悲観協会の会員たちが出てくる。大彗星の衝突や空飛ぶ円盤による地球攻撃などのニュースを持ち寄って報告する。

 森吉正照「太陽はいつ燃えつきるか?」には、未来の日記の一部が引用されてゐる。

昭和百億三十一年九月十日、天候 晴(略)刻刻と巨大な太陽が襲ってくる。なじみの焼鳥屋が焼け出した。向かいの第X代山下清宅では物干しの清さんのフンドシがこげている。

 日記の持ち主の向かひには、画家の山下清の子孫が住んでゐるらしい。つづく。