泉鏡花が好きすぎて一緒に寝た久保より江

 『青年日本』は青年日本社発行。大正3年5月号が2巻5号。いくつか同名の雑誌があるが、これは雑賀博愛編集のもの。

 硬い政論記事が並ぶなか、大正博覧会の見聞記事がある。しかし全体に点数が辛い。東洋趣味が欠落してゐて不愉快で、「浅薄なる西洋趣味の模倣ならざるはなく」といった状態。ケーブルカーは猿芝居だと非難してゐる。これは猿の綱渡りのやうだといふことか。エスカレーターもこき下ろす。

子供欺しの器械仕掛けを添えて十銭の料金を貪ぼるとは、人を馬鹿にして居る。

 智徳塔は東京市の恥、美人島は女湯を覗くやうな人が来さうなところと悪口をいふ。

 ほかに1ページだが「新しい女」といふゴシップ記事があった。「新しい女」の中でも最も変はってゐる人として、福岡医大の久保猪之吉の夫人を挙げる。名前が明記されてゐないが、これは久保より江のことだらう。

 より江は大の泉鏡花ファンで、鏡花以外の小説は一切読まない。ついには「作者の傍らに寝て見度い」と野心を起こした。

 鏡花も

斯く迄吾輩を信仰するものゝ切願とならば特別の詮議を以て御許し申さう

 と盛夏の晩に実行に移した様子が描かれてゐる。

 

久保より江については文化サロンを開いてゐたと紹介する文章があり、優雅なイメージをもたれさうだが、この記事だと奇行の人だ。出久根達郎漱石センセと私』はより江を主人公にしたものだが、夏目漱石夫妻との関係が主軸で、後半生のことはあまり書かれてゐない。