東京毎朝新聞が認めた喫茶店ゴロナ

 漫画やドラマなどに登場する架空の新聞、毎朝新聞。過去にはいくつか実在した。手元のものもその一種。『東京毎朝新聞』は東京都豊島区の同社発行。昭和9年12月9日発行号は第2065号。1部2銭、1カ月50銭。定価から見ても、おそらく表裏2ページ建て。

 内容も豊島区のことが中心。1面が硬派記事で、トップは「立憲日本の危機迫る」。本多明豊島区会議長が11月24日に発した暴言を取り上げてゐる。予備陸軍中尉でもある本多は、五・一五事件の被告の公判を傍聴。彼らの愛国心に感動し、

私も井上日昭が出なければ飛行機に乗つて帝国議会の上から爆弾を投下しようとした事が再三、再四、ありました

 と語り、今でもその覚悟はあると絶叫した。

 2面は軟派記事で、風紀を極度に紊乱する喫茶店、カフェーを批判してゐる。巣鴨四丁目にあったのは喫茶オトヒメ。「客の〇〇を撫でる」と見出しにとってゐる。

女給は豚、狐、兎によく似た何れを見ても美人といふ圏内から遥に遠い地域に居る

 と、ひどい言はれやう。

 対照的に褒められてゐるのが池袋駅東口、平和館横丁にあった喫茶店ゴロナ。この横丁にはいろんな飲食店があるが、喫茶店はゴロナ一軒だけ。なぜならば、ゴロナは店の感じがよく、ほかの店が必要とされないからだといふ。文子、秀子、静子がゐて、それぞれ古典的な美人、天真爛漫で表情豊か、苦労人で観察力がある、などと細かく紹介。ピカ一は静子らしい。

 広告も池袋近辺のもの。喫茶店はゴロナだけで、食堂やカフェーはほかにもある。偶然にも東京毎朝新聞からの御礼広告が載ってゐて、現在の社長が小松一男であること、父が周二といったことなどがわかる。1面題字下には編集発行人が宮坂建雄とあるが、ふだんは社長名などは載せないだらう。