高木兼寛「常に音声を多く使用する人々は、其心身概して強健なり」

 『国民必修 神社概説』は高木兼寛著。発行所の記載なし。縦型の冊子。大正8年4月に3版発行で、2月の初版以来、合計5万部印刷とある。非売品とあり、神社などで頒布したのだらうか。

 著者の高木兼寛脚気論争で森鷗外と対立し、のちに高木の正しさが証明された。患者の臨床的観察・科学的手法によるもの。高木は寒中ミソギに傾倒し実践するとともに、ミソギの科学的研究も行ひ、その効能を論じてゐる。

 冊子は本文18ページ。平凡な書名のものだが、実は高木独特の神社観、神道観が表れてゐる希書・奇書。

 1から21まで項目を立てて、神社や神道についての語句を解説してゐる。たとへば「祭典」は、ただぢっとしてゐるだけの退屈な儀式ではない。

同一の事を思ひ、同一の事を意宣(いの)り、同一の事を行ひ、思言行全く一致して多衆一体となり、以て相互の親和を固め、延いて一村一町一郡一県一国及世界の平穏無事を謀るべき最良の儀式なり。

 「狛犬」は無いが、「獅子」として説明してゐる。獅子の牝牡といふ解釈だ。

住民挙て獅子の如く元気を興奮し、其牝牡の如く親和する時は、悪災に襲はるゝことなきが故に、獅子を悪病除の神とも云ふ。

 獅子の姿を見た人は興奮し元気になる。オスとメスが仲良く鎮座してゐるのを見れば、互ひに親しむことを教えられ、無限の威力を発揮できるやうになるといふ。見た人への心理的な効果を科学的に論じたもの。社殿を守護するなどと非科学的なことは言ってゐない。本物の獅子ではなく獅子の彫刻なのだから。

 「祝詞誦読」も説明してゐる。

発声は身体各部の震動を起し、誦読は不知不識の間に深呼吸を営み、共に栄養機の発動を盛ならしむるが故に、全身の健康を裨益すること大なり。

 祝詞を口に出してよむのは体に良い。太鼓や楽器の項でも、身体を震動させることで体が丈夫になり、攻守にも備へられるといふ。

大太鼓、大梵鐘の音の如きは最も其能あり。故に常に音声を多く使用する人々は、其心身概して強健なり。

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