ハイジャックで沖縄行幸を阻止しようとした章二のバラ作戦

 『天皇が沖縄に来る日』は大城翔著、月刊沖縄社発行、佐久田出版発行。1984年4月発行。表紙には「天皇は果して沖縄の土を踏めるか?」とある。文字だけだが、裏表紙には立ち上る黒煙と炎が描かれてゐる。あらすぢには以下の文言。

 

ハイジャック事件発生!その目的は?

成田発ロスアンゼルス行きのジャンボ機が乗っ取られ、羽田空港緊急着陸した。政府とホワイトハウス間で息づまるような交渉が展開された。日米両政府を事件の渦中に巻き込んだハイジャッカーの狙いは何か? 400名の人質の運命は? 天皇の乗った特別機は?

ドラマは以外な結末を迎える――。

 「以外」はママ。扉絵はジャンボ機を背景に、顔を隠したテロリスト風の人物、火炎瓶を投げようとしてゐる者、時計の文字盤が描かれる。装画は安室二三雄。

本書は沖縄の本土復帰13周年に際して計画された、天皇の沖縄行幸を阻止しようとする小説。主人公の章二は北海道出身の元自衛官。沖縄で不発弾処理などをしてゐたが、隊内の皇民化教育、右傾化する政治状況に危機感を深め、沖縄の人々と交流し、彼女もできた。彼女の母は旧日本軍に殺害されたことを知り、自衛隊をやめて上京した。自衛隊天皇の来沖で士気を頂点に高め、反動の道を進み、歴史を逆流させようとしてゐる。戦後にけりをつけ、沖縄を忘れようとしてゐる。

 章二は作戦のため、ゲリラ戦や公安事件を研究した。

章二の部屋はこうした研究書や文献、推理小説などがぎっしりつまっていた。この部屋にはいった瞬間、誰でも「革命の匂いがただよう部屋」であることを感じ取るだろう。そのため章二は、夏子にさえアパートを教えなかった。秘密の部屋でしか完全犯罪は成功しない。

  警察は過去最大の人員を沖縄に投入する「菊作戦」で厳戒体制を敷いた。これに対し章二は自らの作戦を「バラ作戦」と命名行幸阻止のため、ハイジャックを計画した。それは警備の裏をかき、米国を巻き込んだ「史上最大の作戦」だった。

 警察、県知事、新左翼らの思惑を交え、事態が進展してゆく。右翼も登場し、行幸賛成を訴へる。

賢明な県民の皆さん。一部の国賊の扇動に乗ってはいけません。天皇陛下の初めての御巡幸を心をこめて歓迎しましょう。各家庭に、日の丸をかかげ、沖縄全県下を、日の丸の旗で埋め尽し、沖縄県民が日本国民であることを今日こそ正々堂々と主張しましょう。 

 あとがきで著者が「事実とフィクションが渾然一体となっている」と記すやうに、過去の警察の失態、ハイジャック事件などが参考にされてゐる。米兵が金や女ですぐに協力するのはご都合的だが、犯人と管制塔とのやりとりなどは緊迫したものがある。