SPADのリーダー、双瞳の磯部章弘

 『一九九三年秋・日本クーデター それは闇将軍暗殺事件から始った』は昭和58(1983)年6月、室伏哲郎著、三天書房発行。装丁・装画は風祭竜二。
 10年後にクーデターを起こすことを予想した未来小説で、テレビはケーブルテレビが発達してゐるが公衆電話はそのままだったりと、今読むとチグハグ感が味はへる。
 最初に登場人物一覧があり、ここだけでもあらすじが想像できる。主人公の磯部章弘はSPAD(スメロギ・プラクティカル・アナーキスト同盟)のリーダー。Dが同盟で、ここだけ日本語…。これは黒ヘルのSAG(スメラミコト・アナーキスト・グループ)が念頭にある。
 

当時の彼の書生っぽい社会観によれば、天皇制の無責任体系と無政府主義は、全く相反するようで、じつは多分に似通っているのではあるまいか

 と磯部の心情を描く。磯部浅一二・二六事件に感化されてゐる。
 磯部は昭和43年生まれの東大卒。由井正雪と同じ双瞳を持つ。これは本当に左右各に瞳が二つあるのではなく、色素の関係で瞳が同心円状に二重にみえるのだといふ。学生アルバイトとして、黒無書房で勤務。そこではナチズムやアナーキズムの本を出版してゐる。
 頭山玄翁は空手一進会会頭。日本古武道協会会長。参議院議員
 森崎義夫は日本イスラム回天協会専務理事。参議院議員
 則山卓麿は日本新神道スメロギ教団主宰者。衆議院議員
 竹上昇は竹下登、中田角英は田中角栄と、モデルが容易にわかるやうになってゐる。森崎や則山にもモデルがゐるのだらうか。