高畑和夫「集金は読者に快感を与える行為です」

『新聞販売の基本』は高畑和夫著、読売情報開発センター発行、昭和50年12月15日発行。

 高畑は昭和6年生まれ。神戸商科大学卒業。マーケティング研究センター所属。大阪読売販売開発訓練委員会専任講師。

 370ページで重みがある。表紙回りにびっしりと「新聞販売の基本」の文字があしらはれてゐる。推薦のことばは丸山厳読売新聞取締役販売局長。

 第Ⅰ部「新聞販売人の心がまえ」、第Ⅱ部「新聞販売業の特質」、第Ⅲ部「新聞の三業務」からなる。当時はほとんどの家庭で新聞を購読してゐることが前提で、購読料も自動引き落としでないなど、今とは状況が違ふところもある。新聞販売の基本は配達、集金、拡張。この三業務を論じた箇所に特色がある。いかに苦手意識を克服し、発想を転換し、やる気を出すか。その方法を伝授する。

 集金は、新聞を売るときのやうにファイトを燃やす人が少ない。しかし集金にも自信と情熱をもって当たるべしと訴へる。

集金は読者のためになることです。読者も払うべきものはいつかは払わねばなりません。支払ってしまえば、その分だけ経済的にも精神的にも肩の荷を下ろします。したがって、集金は読者の気分を楽にし快感を与える行為です。

  さうだったのか…。これを読んだ人は「それならどんどん集金に行かう」と思ったのだらうか。

 三業務のなかでも、やはり拡張を論じた箇所が興味深い。抵抗感を取り払ふためには、役柄になりきることが大事だとアドバイスする。

あまり生身の自分を前面に押し出さず、もう一人の自分を舞台の上で操る呼吸を早くつかむことが大切です。虫の好かぬお客にぶつかった時でも、もう一人の自分を動かしているという気持ちの余裕があれば、少々のことではカッカとこなくなるので調子が乱されません。

  拡張してゐるのは自分ではなく、もう一人の自分。セールスマンの役になりきれば身振り手振りもそれらしくなるといふ。しかしこれだと、契約が取れたときはどうするのだらう。そのときは生身の自分の手柄になるのだらうか。かはいさうなもう一人の自分。

 訪問回数についても、何度も反復すれば成功するといひ、83回訪問した例を紹介。

一旦断ったものを急に掌を返すようなことも言いかね、引っ込みがつかぬままについつい今日まで延びてしまったのだ。済まなかったね。お詫びの印に飯を食って帰りなさい。 

  頑固親父は少年に謝罪し、飯をおごり、一緒に町内を回り、「どうかこの子の新聞をとってやってください」と一軒一軒訪ねてくれた。…これを読んだ人は素直に発奮したのだらうか。しかし何度断られても、あきらめずに訪問するのが大事なのだ。軍隊も宗教もさうしてきた。

昔の日本の軍隊では軍人精神を兵隊に植えつけるのに、軍人勅諭なるものを朝に晩に朗読させました。宗教も教祖の説教を一度聞いたぐらいでは感化されませんが、何度も同じ話を聞かされているうちに信ずるようになります。 

  購読者の管理では、数とともに質の向上を目指すべきだと指摘。絶対他紙に浮気しない固定読者以下、9種類に分類。無代紙を提供してゐるサービス読者、値引き読者、購読料の回収不能読者らを整理すべしとしてゐる。

 

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