「悪徳新聞記者は敬して遠ざけよ」

 『人事物件民刑百般 内證の相談』は岩崎徂堂・高橋茂共著、鈴木順閲。大正2年3月、岡本偉業館。ポケット判。金銭の貸借、戸籍の届け出方、婚姻・離縁、などの手続きや法律上の問題について、質問に答へる形で案内してゐる。

 硬い項目に交じって、たまに目を引かれるものがある。「近所の猫が来て勝手にある魚を食つて困りますが殺したら何うなりませう」「新聞広告に結婚媒介所と云ふものがあるが夫れに頼んでも間違はありませぬか」など。

「洋服を着た人が本を買つて呉れろといつて来たが断つても置いて行きましたが何うしませう」といふのもある。これには、

俗に押し売りと申しまして、近頃大分コンな事をして、歩く者が多くなつたのです 

 云々と解説し、強請なので警官に処分してもらひなさいと教える。本の種類は書いてない。洋服を着た人が、とか近頃とかあるので新手の犯罪のやうだ。

「私の家の悪事を新聞に書くが金を出せば記事を見合せると申して来ましたが如何致しませう」といふ相談もある。これに対し、回答は、無名の新聞社・通信社、「地方の下らぬ新聞記者」は悪事醜行の投書が来ると脅迫することがある、そんな悪徳新聞記者は警官にいへば脅迫未遂で拘引される。しかし、

 

さう単刀直入に警察官に知らせて、引渡すなどはせん方がよい、何時しか彼等悪徳の連中に恨みを受けて、何うせ碌な事をされないのです 

 

 すぐに警察に引き渡すのは得策ではない、恨まれないやうにしてきっぱり断るのがいいと教える。「敬して遠ざけるが第一」。記事を載せるのが目的ではなく、お金が目的なのだから、こちらが強気に出るのが肝心だと説いてゐる。

 類似の質問に「或新聞社が私の家の悪口をある事無い事書きましたが何うしたらよいでせうか」といふのもある。これは既に記事を書かれた場合で、その時は名誉回復を訴へて広告や損害賠償を出させるのがよいと指南する。