加田哲二「読書の効果はスポーツ以上」

 財団法人社会教育協会発行の『教育パンフレット』昭和15年4月10日号、第372号の表紙には「読書の方法」とある。中の目次には著者の加田哲二の名前が記されてゐる。経済学博士でファシズムについての本もあるが、この文章には読書への信頼がうかがはれる。

 加田は青年の持つエネルギー、活発性を評価する。スポーツに打ち込むのも大いに結構だといふ。しかし青年には読書も大きな効果があるといふ。

スポーツのやうに派手ではないが、読書がその精神・思想に及ぼす効果は、恐らくそれ以上のものである。広々とした原野に立つてその溢れるばかりのエネルギーをスポーツに放出してゐる青年達の姿が溌剌清新であるとすれば、深夜古典を繙いて、深く思ひを古今の事象に廻らしてゐる青年の姿には、深刻崇高の観がある。 

  新聞・雑誌・書籍には、それぞれの本質があると注意を促し、それらの特徴や読み方を教へる。読書を専門的読書、教養的読書、娯楽的読書の3つに分類。教養的読書は、偉人の自伝、漱石や鴎外、歴史書を薦める。娯楽的読書は、病気のときや休暇中にするもので、読めば得るものがあるといふ。日本のものでは中里介山吉川英治がいい。その一方、読まない方がいいものもある。

世の中には、売らんがために自らユーモア小説とか、傑作小説とかを誇称してゐるものもあるが、さういふものの中には大したものはない。(略)探偵小説にしても、実話物と称する実に下らないものがある。 

  かういふ娯楽的読書は無駄だといふ人もゐるが実はさうではない。

世の中には、一つの教を創始するやうな精神的に偉大な人間もゐれば風のやうに来り、風のやうに去つてしまふ凡人の如何に多いか。またそれらの人々が、いろいろの煩悶と労苦とを持つて、この世の中を渡つて行くか。さういふ生活の点の姿を見ようとするならば、われわれは無駄といはれてゐる読書をもしなければならぬ筈である。 

 

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