河越恭平「我等は別に錬成会式の直会法を案出した」

 『国民皆行 みそぎ教典』は河越恭平著、東京市職員修行部禊会編纂、明徴社、昭和17年1月発行。河越は東京市勤労報国会講師、東京市職員懇談会講師、東京市職員修行部理事の肩書がある。東京市職員修行部といふのが気になる。

 大政翼賛会中央訓練所が採用した、川面流の流れを汲む禊について、意義や実際の作法について述べられてゐる。

 

所謂東亜共栄圏の建設は帝国存立の急務なるにも拘らず之に対する国民の気魄には、ともすれば挺身奉公の精彩が乏しかつた。(略)嗚呼是れ果して誰の罪ぞ。我等の禊は斯の国民的罪悪に恐懼して、其の因を為す一切の禍津毘を神の稜威に祓ひ清めんとする懸命必死の聖行であつて、固より修養の為でもなければ、健康の為でもない。

 

  非常時だといふのに、国民には緊迫感が足りない。その罪を祓ひ清めるのが禊といふ聖行である。さうして宿敵米英の打倒にも邁進できる。

  河越の説く禊は、実は川面流を時局に合はせて改変したもの。

 川面流に於ては、肉我征服の為に断食、減食、禁酒、禁煙を行はしめ、減食は一日玄米八勺を粥として二回に与へ、副るに胡麻塩及梅干二三個を以てするのである。然るに我等の禊は概ね他に体錬其他の錬成を伴ふので、食事は平食を原則としてゐる。

  川面流では食事を減らしたり断食をしたりした。しかし現在は体を鍛へるためにも、さういふことはしない。また、川面流では食前祝詞豊受大神天津神国津神を祭る。しかし河越らは「箸とりて飯を食ふにも大君のおおみめぐみと涙こぼるゝ」といふ佐久良東雄の和歌を合唱する。

 まだある。禊ののちには普通、参加者が直会で酒や食事を共にする。しかし物資不足などもあり、「我等は別に錬成会式の直会法を案出した」。

一同神前に円陣を組み、互に手と手を固くつないで

  海ゆかば水つく屍山ゆかば草むす屍大君の辺にこそ死なめかへりみはせじ

 の歌を、声高らかに合唱するのである。 

  酒などは飲まずに、円陣を組んで手を結び、「海行かば」を合唱する。食前祝詞と同様に、神道色・宗教色が薄められてゐる。書名に国民皆行とある消息がうかがはれる。

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