倉田留吉『三大詔書と新日本国民の使命』の賛同者たち

 『三大詔書と新日本国民の使命』は大阪の修養学館教頭、倉田留吉の書。大正14年2月、修養学館労使平和協会発行。
 明治の教育勅語、大正の戊申詔書、精神作興詔書を取り上げて解説したもの。ルビで修羅戦場にワイールドバツトル、馬鹿にアンワイズリ、守護神にトウテムなどと英語を用いてゐるが内容はいたって普通。
 特徴的なのは多数の賛同者による文章で、いはゆる悪書を糾弾し、この本のやうな良書を読むべきだと主張してゐる。序文で永田仁助は

世上には書物でない書物、則ちむしろ社会に害毒を流したり、心を穢がすやうな、淫靡な、悪俗な書物が比較的多く世に行はれてゐる

 しかしこの本は言ってみれば「無二の良書」であり、「回覧文庫」を通じて効果的に普及させたいといふ。
 「本著と諸名士」にも関西を中心にした財界人たちが賛同の趣旨を述べてゐる。刊行と同時に載ってゐるので、原稿の段階で読んだり、著者の日頃の主張を聞いたりして賛意を示したのだらう。
 東洋紡績の庄司乙吉も「悪書」批判。始皇帝焚書について

乱暴であり、愚謀の極であつたに相違ないが、一面又深く当時を考察すると色々な意味の『悪書』が世に行はれて政治、思想、道徳、秩序を壊乱したから極端な焚書といふ手段を取つたものと想像されぬことはない

 慎重な言ひ回しながら、焚書の時代背景を考察し、良書の普及を希望してゐる。
 仁丹の森下博も「貴書の如き良書を最も広く世に行はせしめ」、道徳風教を振作したい、林安繁も「今や国民の大多数は悪道徳、悪思想の狂夢と熱病に冒されてゐる」と危機感を露はにする。
 なほ永田らは長慶天皇の陵墓について新発見の「竹内古文書」を研究、上奏文を捧呈するといふ。