宮林得三郎「零点以上に評価される気遣ひのない私」

 宮林得三郎『戦時下の世相に対して私は斯く叫びたい』は昭和13年11月、京城での刊行の小冊子。非売品。表紙に「自由主義個人主義思想を排撃して国家全体主義思想高潮運動を提唱す」ともあるので、著者の主張が分かる。
 手元のものには「この小冊を江湖に贈る私の心」といふ紙片が入ってゐる。「ヅブ素人の心持ち」「なけなしのサラリを割いたこの上梓」ではあるが、「ひた向く愛国への発願」で行動したのだといふ。
 前書だけでも読んでほしいとあるのでその前がきを読むと、ここでも「零点以上に評価される気遣ひのない私」と自分を卑下する。その宮林が主張するのは自由主義個人主義の排撃。

 たゞ正心正銘、自由主義陣的個人主義殲滅陣への斬り込みである。この「みち」こそ総ゆる宗教、総ゆる法律、総ゆる道徳をも超越した絶対境「すめらぎの道」である

 謙遜と攻撃が同居し、不思議な感じがする。商界地獄(仮称)に仲間入りした、商売人の醜行があばかれた、ともあり、朝鮮でなにか商売上で一時苦労し、そこから一転して全体主義に目覚めたやうだ。
 ヒットラームッソリーニにも共感し「この運動をより強力ならしめたい」「更に有効適切な企画の連続的発表」と謳ふ。長期戦の覚悟も示してゐる。