色盲表の印税で『あたらしい文字』を発行した石原忍

『あたらしい文字』は、あたらしい文字の会発行の機関誌。昭和35年8月に創刊し、38年3月発行の通巻26号をもって休刊した。発行の経費は、石原忍博士の石原式色盲表の印税によって支弁されてゐた。
 石原博士が亡くなり後継者もゐないので続刊が難しくなった。
 誌名の「あたらしい文字」の下にある、アルファベットのやうな文字が石原博士考案の「あたらしい横がきかなもじ」。聖書の一節を漢字かな交じり、カナモジ、ローマ字、新カナ文字、英訳文で載せてゐるのを見ると比較しやすい。
 新カナ文字の一覧表も載ってゐて、五十音に加へ半濁音(ぱぴぷぺぽ)、濁よう音(ぎゃぎゅぎょじゃじゅじょなど)の表記法もわかる。
 この新カナ文字、「てがき体」「つゞけがき体」もあるので、たくさんの字を覚えねばならない。新カナ文字の趣旨に能率向上もあるのだが…。
 休刊号には対談が二つ。あたらしい文字の会主幹の山本初太郎が聞き手で、一つは梅原真隆。梅原のもとには石原博士のパンフレットなども届き、趣旨は了解してゐるし、漢字かな交じり文の不便も感じてゐるといふ。

それだからと申して千年以上も使ってきた漢字を、今一時に廃止するとか、カナばかりにしても充分間に合うなどとは、私は信じられません。(略)これくらいで、お許し願います。

 と、新カナ文字に手放しで賛同はしてゐない。
 二つ目の相手は、やさしい文字の研究会会長、白川初太郎。元軍医大佐の開業医。岐阜高山で漢字の簡略化を主張してゐる。森鴎外ら学者が書いた医学書が難解だったことが動機だった。

 石原先生の、人のためにしている、社会のためにしているという自信には相当に真実化されたものもありましたね。頭山満とか下中弥三郎というような方々のそれに、一寸共通したものも見られました。その比重は勿論ちがいますがね。

 と、石原の活動が頭山翁や下中弥三郎に通じるものがあるといふ。スケールが大きいとか破天荒だとかいった意味合ひだらう。