目次も検閲された田崎文蔵著『神兵隊事件の全貌』

 平凡社下中弥三郎が大陸に作った新民印書館。そこで働いてゐた山中林之助の協力により、『神兵隊事件の全貌』(田崎文蔵著、新民印書館、昭和19年10月30日発行)が発刊された。定価12円とあるが、売れ行きは悪くなかったやうだ。
 「序に代へて」に山中への謝辞。経歴もあり。田崎は茨城出身で、祖母と藤田小四郎との縁、事件への父母の理解があったことを記す。大正9年に井上日昭と知り合ひ、田中光顕に啓蒙された。11年に小学校教員から時事新報記者となり、アメリカの日本人排斥問題では暴米膺懲の輿論を喚起した。記者生活は足掛け19年とかなり長い。その後維新運動に挺身した。
 著者近影では乱れたひげで豪傑風だが、筆致はジャーナリスティックなところもある。ワシントン会議、ロンドン会議など、米英による東亜侵略から説き起こし、神兵隊事件に対する海外の反応にも触れるなど、米英との長期戦争の見方をしてゐる。表紙も開戦や戦況を伝へる新聞紙のコラージュだ。
 中心は神兵隊事件の公判記録だが、検閲の伏字が多い。目次も2箇所伏字。本文も所によっては9割くらゐ検閲で読めなくなってゐる。句読点だけは残されてゐて、異様な感を与へる。