稲葉晴忠「今は書物の余りに多きを怖れて居る」

 『赤城の森』は赤城学庭会発行、大正元年12月発行号は第36号。東京・牛込にあった赤城小学校の出来事や論説、読み物などを載せる機関誌。

「児童と課外読物」と題して、稲葉晴忠が5ページにわたって課外読物の良い点や悪い点を論じてゐる。目次の稲落といふのは誤植か。課外読物といふのはちょっと耳慣れないが、授業で読むもの以外、家庭で読むものだらうか。

 稲葉は、課外読物には教育上の害のあるものもあるといふ。

読書の為に反つて品性を害ひはせぬか。と考へられるものを折々発見する事がある。例へばジゴマの如き、講談倶楽部の如き是である。

 ジゴマは当時流行した怪映画、小説。犯罪の真似をするといふのでかなり問題になってゐた。他にも商業主義や不健全な思想に毒されることがあるので、注意深く選書をする必要があると説く。

出版物は漸く激増し来り、今や其の取捨選択に迷つて居る有様である。昔は書物の少きを憂へ、今は書物の余りに多きを怖れて居る。

 児童が課外読物をほしがるには理由がある。その一つは、児童は小学校入学ころから記憶力や読書力が増進し、教科書だけでは物足りなくなること。他には、教科書が無味乾燥であること、出版物が激増したことなどを挙げる。

 課外読物の利益については6点にわたって述べてゐる。「読書趣味の養成」。読書の習慣を身に着けることで、将来、自学自習で世の中をわたっていけるやうになる。「徳性の涵養」。「忠臣の義烈を慕ひ、孝子節婦の徳行を懐ふ」ことになるので、明らかに有益である。「健全なる常識の修養」。社会の速い変化に追いつき、混乱せずに健全な常識を修養できる。「金銭の濫費を防ぐ」。金銭を一時の飲食に使はず、「物質的の快楽を打捨てゝ精神的の快楽を得る事になる」。あとは「教科書の理解を助ける」「不健全なる娯楽の予防」と続く。

 「高尚優雅」「清新な娯楽」などの表現もあり、現代につながるところもある。

 一方、課外読物の弊害にも触れてゐる。家事の手伝ひを怠る。運動不足になる。濫読の結果、頭脳が混乱に陥る。

 弊害はあるものの、周囲が注意すれば利益の方が多いので、むしろ推奨したいと論じる。

 

・学力テストの算数は学校の図書室の話。貸し出しが多いのは良いことだといふ思想に基づいてゐる。冊数を増やすため、「地域の図書館」のシマを荒らさんばかりの勢ひ。

 

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