岡野均と驚きももの木追悼記

 ピコ太郎が記者会見で、ブレイクの感想について語った「驚き桃の木20世紀でございます」。これは約20年前に放送されたドキュメンタリー番組、「驚きももの木20世紀」といふ番組名からきたものと思はれる。6年半にわたり20世紀の出来事や人物を取り上げた。ほぼ同時期に放送されてゐた「知ってるつもり?!」のやうなお涙頂戴でなかった。テーマも渋いものが多く、知られざる事実を発掘することもあった。当初、ディレクター間での番組名への評判は悪く、

「タイトル決まりましたって聞いて『えーっ』と言った覚えはあるよ。最初はロケ行ってタイトル言うの恥ずかしかったもん」。
一同「そうそうそう(笑)」

 と回顧されてゐる。その本は「岡野均と『驚きももの木20世紀』」。平成12年1月31日初版印刷。編集スタッフは青木研次・緒方明森本茂樹・藤井信一・石川千珠子・片桐悦子・中島克・森光明。青木が編集代表。株式会社エフロが発行場所とある。定価のない非売品。本文中では自費出版とある。公的機関の所蔵が確認できないが、テレビ朝日や関係者のところにはあるだらうか。
 黒鉄ヒロシビートたけし浜田雅功古舘伊知郎鳥越俊太郎三宅裕司麻木久仁子ら著名人も原稿を寄せてゐる。岡野均が番組を立ち上げ、プロデューサーを務めた。番組のラインアップ一覧表があり、収録日・放送日・テーマ・制作会社・演出・構成・ナレーション・コメンテーター・アシスタント・視聴率が全て記録されてゐる。金曜夜の放送で、視聴率は月曜に判明する。芸能人の生い立ちを扱ったものが数字が良い。昭和裏面史のやうなものもあって、説教強盗・イエスの方舟安重根中川一郎御船千鶴子昭和天皇誤導事件・M資金・内村健一・東久邇宮稔彦高岡智照ゴーストップ事件井上円了…、今でも見たくなる。ゲストコメンテーターには黒鉄が多く、秦郁彦も。
 岡野は京都大法学部から宗教哲学科に移り、仏教に造詣が深かった。執筆者の一人は

 テレビなんて作ってるヤツは無神経で鈍感でアタマの悪い人間のあつまりだ、と思ってた時期があった。中でも局Pなんてのは最たるもので『視聴率』と『タレントの機嫌取り』と『自己保身』しか考えない大バカヤローにしか見えなかった。

 と記してゐるが、そのやうな気持ちを一変させたのが岡野だった。本書には若くして亡くなった岡野への愛惜が詰まってゐる。面白いのはディレクター座談会で、岡野の小学生時代の作文から始まり番組の作り方、好きだったテーマや最期まで描かれてゐる。出席者の一人は

 一番傷ついたのはさ、岡野さん亡くなったあと、新聞や雑誌に岡野さんのことや『驚き』のこと載るじゃない。全部共通して書いてあるのは「岡野という男は厳しくて、制作会社のディレクターは泣かされたことが多くて」って書かれてるのよ。

 と指摘。今でも発行されてゐる週刊誌と新聞の名前を挙げ「そういう事は絶対ないよね」「全員(はっきりと)ない」と語っている。「それは書いたやつ殴ろう、おれ」との発言もあり、岡野の気配りぶりが描かれる。