中島健蔵「本を買うのも気合いである」

 九月も半ばを過ぎ、こんな天気ならもう秋と言ってよい。秋は読書である。
 中島健蔵『アサヒ相談室 読書 読み方・そろえ方・扱い方」は朝日新聞社のシリーズの一。ほかに「法律」「買い物」「信仰」などがある。
 手元のものは初刷の記載なく、昭和28年7月20日第4刷。
 相談室といっても質問に答へるのではなく、読書入門とか読書指南の趣。材料提供者として庄司浅水の名があり、初めの本の種類・管理法など一般的なものから、次第に著者独自の経験や見解があらはれてくるのが面白い。
 初めの方でも「新しい本のあけ方」で「表紙を百八十度以上に開くことはよくない。ことに大切な本や、古い本でもろくなっているものを開く時には、決してむりをしないで、自然に開く程度にとどめる」と指南してゐる。
 蔵書の問題ではマイクロカードの普及を理想とする。

わたくしは、将来、マイクロカードを中心にする図書室が、津々浦々にできることを空想する。現在のままの大きさで、内容は数千倍、数万倍の豊かさになるのである。

 自宅にもリーダーを置きたいといひ、「これは空想ではない。遠からず実現されるにきまっている現実なのである」と意気込んでゐる。「二千部以下の出版は、限定出版に等しい」といふ断言と共に、時代を感じさせる。

 読書案内の本で古本に触れないものも多いが、この著者は古本ビイキなのがよい。「本探しの道は、世界的にいつて、いやでも新刊書の店から、古本屋の方へと進んでゆく」といふ。戦時中、古書目録で仏文の書を見つけたが、三宅雪嶺に先を越されたといふ。

本を買うのも気合いである。とうてい手に合わないような高いものは、早くあきらめられるが、どうやら買えそうな時に、ふと迷つたらそれきりである。肩すかしを食つて、空中をおよぐような気もちを味わうことになる。戦後には、新刊書でさえ、まごまごすると買いそこねる時期があつた。ことに古本の場合には、気合いである。

 「空中をおよぐような気もち」は実感だらう。中島は戦災で蔵書を焼いたり、徴用された南方で、暑さで本が読めなくなった経験をしてゐる。