川口忠「地球は廻る、時代も廻る!」

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  『金儲けの秘術』は川口忠、東京文化新報社発行、昭和28年11月5日初版、33年3月10日付が13版。川口は同社社長。

 機転を利かせたり一工夫をしたりして金儲けをした実例、失敗例を紹介する。

 地球は廻る、時代も廻る! 金儲けの盲点は時代の変遷と共に絶えず移り変り新らしく次から次へと生れ出て行く。その盲点をとらえるのは諸君の頭だ! 勇気だ! 実行力だ!!

  「金儲けにインチキは禁物」の項に、福島の具留田勇三といふ人が出てくる。「油揚の千枚も食べて来たかの如く、ベラベラと実によく喋り…」と紹介されてゐる。金がなくてもうまい料理を食べる方法を実行してゐるといふので読み進める。

 

あと少しで食べ終るという時に、

「な、な、なんだ! 此処の飯には蠅が入つてるじやないか!!」

 大声で叫び散らして食べたものを一口ペッと吐くと、なる程出てきた物の中には蠅が一匹入つている。

「俺は蠅料理を頼んだ覚えはない、まったく馬鹿にしとる! 此処の管轄の保健所はドコだ保健所は!!」 

  かう言ふとたいていの店主は、内密にしてほしいと言って食事代をタダにしてくれる。蠅は食事前に捕まへてポケットに忍ばせておいたもの。…犯罪だ。

 巻末付録に、「小中資本で必ず成功する開業法42種」といふのがあって飽きない。製造業ではこけし、軍手、クレヨン、割りばし、スリッパなどについて、何にいくらかかるか、どういふ組合があるかなどを事細かに指南する。ちなみに出版業もあるが、何でも売れた時代はもはや夢物語で、「素人がこの分野で成功することは殆んど不可能」と勧めてゐない。

 さらに次に「収益驚大で明日からスグかかれる最も堅実な男女アルバイト14種!!」がある。「必ず儲かる校門販売」では校門前でカメラ、望遠鏡、模型飛行機、水鉄砲、ボールペンなどの品目を挙げ、原価や問屋も打ち明ける。

 さらに次に「失業者が即座に働ける仕事6種とそのかかり方」がある。「特価本の校門販売」は先のとは別扱ひ。

校門の前に戸板を敷いて、その上に図画事典や工作宝典、いろは辞典、漫画事典、探偵、冒険、野球 小説本などを並べておくと面白いように売れる。 

  学校の先生に売ったり、先生から子供に紹介させたりすれば信用されるともあるが、さうすんなりいくかどうか疑問だ。卸しは特価書籍の店なら定価の5割くらゐのものも沢山あり、利幅が大きいと勧める。

東京玉川局第七号東京文化新報社では男女真面目な派駐社員を全国各県より採用して家庭実益書、一般学生向、大衆小説、文学、趣味書等特価書籍全般を全国的に大卸しているから、返信切手50円を添えて、派駐社員の採用入社手続書を送つて貰えば、たとえ北海道の果や九州の山中に居ても通信で取引が出来るから便利である。 

  東京文化新報社といふのはこの本の発行所。自分の会社には真面目な社員がゐて、全国的に販路があると自賛してゐる。その割には面接もなく、入社手続書を送れば社員になれるやうだ。

 最後のページは同社の本の広告で、12冊の本の背表紙がそのまま書名の図案になってゐる。『挨拶と社交の仕方』『娯楽資料 遊び方大全』『空手極意教範』など。空手の本の紹介文には「本書で学び天下無敵の快男子たれ!」。挨拶にしろ遊び方にしろ、直接教はったり実地で身につける機会のない人を対象してゐるやうだ。

 この『金儲けの秘術』も載ってゐる。「東京書院で密売していた『古見更世』著の本は盗作本に付御注意!」

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