竹内圀衛がおこしたヨクカム会

 『まづタベ方を改めよ』は、長野県小縣郡神科村の竹内圀衛の著。ライオンのホームページ
で触れられてゐるが、公的機関の所蔵は不明。
 発行所はヨクカム会。住所は東京都淀橋区落合四ノ一九八六。奥付では昭和17年6月20日発行で、前書の日付は10月17日。いづれにせよ戦争の只中だ。
 そんな時に何故食べ方の冊子を発行したのか。それはのっけから熱烈に主張されてゐる。すべては「よくかんで食べること」の推奨ただ一点。ヨクカム会はそのためだけにつくられた会。

 私はやみがたい 〝国にむくゆる心ざし〟 から あえて 〝此の筆・此のコトバ〟 をえらんだのです。〝よくかんでたべる〟 と云うこと=云ひかへれば 〝正しいタベ方に改める〟 と云ふことは チヨツトきくと 実につまらぬエダハのコトガラのようで よくよくかみしめて見ると、これこそは ユメおろそかにすておけぬ 〝日ごろ私タチおタガイの生き方をユタカにする上にも今日此のさい〟 み国の急をすくうにも、ヌキサシならぬほどギリギリなテダテであります。 

 よくかむことは、枝葉末節のどうでもよいことではない。日本の危機を救ふためにも必要な、最後の方策である。それがなぜおろそかにされてきたか。よくかむことがよいことだといふことはみな知ってゐる。しかし誰も本気になってしようとはしてこなかった。
 よくかまぬと病気になりやすい。よくかめば病気を寄せつけず食べ物がおいしくなり仕事がはかどり出費が減り良いことづくめである。
 しかも今は非常時だ。「今やタタカヒサナカのわが国が 私タチシモジモにしきりに求めてやまぬ ヌキサシならぬ大事なテダテ」「これは此のさい 国のトリキメとして 一オクのクニタミに しいて行はせても 決してユキスギでないと思うのです」。
 少し読めば分かるが、竹内の危機感、切迫感は尋常でない。ヨクカムことさへ実現すれば、全ての難問は解決すると言はんばかりだ。

 皆さん! これでワケは一切 わかつていただけたハズ。ところで果してやれますか やりますか やり出しましたか やりとおせますか……その答えをさつするトキ、私はとても此のパンフレツト一冊の ハタラキにまかせておけなくなつて来ました。

 そこでヨクカムことをふみおこなふための団体、ヨクカム会をおこした。東京で団体や識者にも働きかけた。大政翼賛会、大日本生活協会、高良富子、大迫元繁らを訪問し、「ドコでも ドナタも皆 心をこめてきいて下さつた」。
 少し読めば分かるが、この冊子は表記が普通と違ふ。スペースを多くした分かち書きで、カタカナばかりで、漢字・漢語が少ない。現代から見ると怪文書かなにかのやうだが、これは「いはれあること」、深い意味があってさうしてゐる。

タベ方の悪しさがカラダを毒しミクニをそこのうように書き方の悪しさがクニタミのココロネをくさらしてゐはしまいか?

 人に物事を教へるにはなるべくかみくだいて、のみこみやすいようにしなければ、どんな立派な教へも血肉にならない。書き方が悪ければ却って読者の害になりかねない。ヨクカムことの大切さは、書キブリでもあらはさねばホンタウでない。