柳原白蓮も支持した大真協会

 『黒い宗教 その実態と悪の構図』(石井岩重、AA出版)は、いはゆる新宗教の暴露本で、金銭や人事問題を取り上げて、非道ぶりを指摘してゐる。帯の惹句には

現代をむしばむ邪教症候群
これでも信じますか!
不信の時代をあざわらうかのように現代にはびこる邪教症候群。
その指導者たちの秘められた履歴、まやかしの教義、俗欲に凝
り固った経営実態を赤裸々に暴く衝撃の問題作!

とある。
 著名な宗教団体の実名を挙げ、それぞれ「淫祠邪教の衣替え」「インチキ宗教の横綱」「悪質なバクテリヤ」「猛烈な金集め集団」「摩訶不思議なゴッタ煮宗教」などと容赦ない。
 「まえがき」では、畏友の國學院の先生からアドバイスをもらったとある。巻末の参考文献には週刊誌が多い。
 手元のものでは昭和59年3月1日に第一刷、10日に二刷、31日に三刷、6月1日に4刷となってゐる。発行者は近津義一。
 さらに続編が翌年5月25日に出てゐる。こちらは全くの書き下ろし。
 冒頭に挙がってゐるのが「庶民を相手にしない大真協会」。「特異な教団の多いといわれる新宗教の中でも、さらに輪をかけて特異な教団なのである」。会員約500人。
 教祖は明治35年札幌生まれの椿麗寿。昭和天皇の顔面神経痛を治したとされてゐるが、その以前の会の発展には、柳原白蓮の力があった。戦後、白蓮と海産物の売買をしたことがきっかけで親しくなり、そこから元皇族の賀陽恒憲、久邇朝融との繋がりもできた。時期としては、美智子妃御婚約反対運動より早い頃。 

 彼は白蓮を招いて歌の講演会まで開くようになり、短期間で白蓮女史の支持を受けるようになった。無学な椿麗寿にとってはかっこうの後援者・後楯であった。一介の水産業者だけの肩書では後の椿の発展はなかったといっても過言ではないはずで、すべて白蓮女史を通じることによって社会的信用を得、椿自身の芽も出てきたはずである。

 大衆を相手にせず、上流階級への浸透に力を入れてゐて、信奉者として鳩山一郎・薫子夫人、横光利一川端康成、辻亮一、画家の志村立美、佐藤栄作元首相、福田赳夫元首相夫妻、園田直元外相の名がある。
  
 しかし大真協会のこともほどほどにせねばならない。
 後半にその他の団体の紹介があって、そのなかに茨城の世界文化中尊神教会といふ、これまた聞きなれない団体のことが短く記されてゐて、頭から離れなくなってしまったから。

この宗派のお題目は「ほどほどなあ」という言葉である。冗談のようであるがこの「ほどほど」の精神を、中正にして不偏、自然と自由を導く「中尊文化」と称するのである。

教義はこのようにきわめて世界性を帯びたダイナミックなものであるが、教団の規模はお世辞にも立派とは言い難い。

 信者数100人、昭和23年開教。石山寛信初代総裁。児童館・児童遊園地が地元の観光資源になってゐて、最高原理程々哲学研究所も設置され、文化図書の発行もしてゐる。
 ここの信者になるとして、熱心に信仰することはできさうにない。何事もほどほどだから。いや、ほどほどに信仰することが熱心に信仰することになるのか。それとも、かう考へることもほどほどにしなければならないのか。ああ。