松岡駒吉「大産業を奉還せしめ社会主義日本建設を提案す」

本当に選挙するんだなあ。
松岡駒吉の選挙チラシは横長で、折って郵送できるやうになってゐる。社会民衆党公認で東京第五区から出馬とある。











































その主張は「大産業を奉還せしめ社会主義日本建設を提案す」。目的にかうある。

大化の改新明治維新に執りたる我が祖先の実践に従ひ、資本家、地主をして、その大産業、土地、銀行等の重要生産機関を 天皇陛下に奉還せしめ、もつて社会主義に基く国家統制経済制度を樹立し、国民生活の国家保証を断行せんとするものであります。

 奉還思想は右翼のみの突飛な主張でなく、社会主義と結びついて選挙公約にも用いられてゐた。有権者にアピールできるものとしても採用されてゐた。次の議会には、産業奉還勧告決議を通過させたいといふ。
 裏面は安部磯雄の「産業奉還と昭和維新」に費やされ、文章量ならこちらの方が多いくらゐ。
 そもそも「産業奉還は我社会民衆党安部磯雄先生多年の主張であり、私も深く之に共鳴し来つたところ」。その安部によれば、奉還といふのは私有財産の否定ではない。財産には2種類あり、1つは衣食住などの消費財産で、これは私有できる。もう1つが資本財産で、土地や賃貸収入のための家屋などがこれに当たる。

私共の主張は資本財産だけを全部天皇陛下に奉還して、消費財産は依然として私共の所有とすべしといふにあるのだから、私有財産制度の廃止にあらずして、単に制限である。

 

明治維新の際に、大名が土地や刀を天皇陛下に奉還した。同じやうに昭和維新を断行して、資本財産を奉還させよといふ。

金力大名が其占領して居る水力電気事業、製糖事業、鉱山事業、造船事業、製鉄事業、運輸事業、植林事業、漁業等は勿論、銀行業、保険事業、百貨店事業等の如きを奉還してこれを国家管理に移すに在る。言ふまでもなく土地は何よりも先きに奉還すべきものであることを付言して置く。

 資本家への不満を持った有権者に訴へようとしたものであらう。

 文末の吉野作造、鈴木文治、片山哲西尾末広赤松克麿、浜田国太郎、川村保太郎、神野信一、小池四郎、佐藤吉熊も全員同じ主張だっただらうか。



・澤口書店の目録第一号、口上にわざわざ「校正にも力を入れました」とあるのでへえと思ったら、新学社の文庫で2ヶ所誤記。同時は珍しい。