ムッソリーニと三浦周行の通訳をしたカルデリーニ女史

 『努力』(『日本魂』の一時改題)の大正12年8月号(8巻8号)に、史学家の三浦周行が一文を寄せてゐる。題して「伊太利国粋党の本領‐首領ムツソリーニ氏との会見記」。
 三浦は前年10月、ベスビオ山の麓で「丈低き一人の同胞」即ち下位春吉の出迎へを受け、車中でもナポリに着いてからも話が尽きなかった。話題の中心は「フアツシスタ」の現在と将来で、下位は三浦の関心を知ると喜んで解説した。ムッソリーニとの会見も用意した。
 ミラノのポポロ・ド・イタリア社を訪れると、丁度ム氏が下位からの電報を手にして待ってゐたところだった。
 イタリア語に不自由な三浦の通訳として紹介されたのが、「エデイト・カルデリーニ女史」。
 

 年に似合ぬ質素な風をして髪はほつれるに任せ、黄色い歯をむき出して、鋭い眼ざしで私を見詰め乍ら、口角泡を飛ばしてまくし立てる様子は、寧ろすさまじい位である。それはまだしも、口数の少ないムツソリーニ氏の通訳としては余りに饒舌であつて、何処までが氏の意見であるか、それとも女史の意見であるかと疑はれる

ほどだった。女史の意見を聞いてから、改めてムッソリーニの意見聞くため通訳してもらった。熱心なファシスタで、「定めし女フアシスタ団の女丈夫であらう」。三浦は会見で、いち早くファッショが中産階級の台頭によるものだと指摘してゐる。
 帰りにファシスタのユニフォームを買はうとしてゐる。お昼時で閉まってゐて買へなかったけれども、マネキンに黒シャツ・鼠色のスカート・黒の脚絆・黒靴・P・N・Fの徽章一式で150リラといふ。貨幣価値がわかったら面白い。