古屋登世子の後援者たち

 続き。古屋登世子は心身共に数々の危難に陥るが、味方も現れる。古屋事件の法廷闘争に助力したのは古川利隆。

坪内逍遥の高弟として、わが国劇団の革新運動の第一線に立ち、とくに宗教劇の俳優として釈迦、提婆、基督、役行者法然日蓮親鸞等、その他、シャイロックムッソリーニのごとき大役の実演に妙技を発揮した先生が、私のため人生活劇の舞台に登場、人非人たちとの闘争に凱歌をあげ、私を終生檻禁の憂目から救い出し、、再び天日を拝むことができるようにしてくださった

 宗教劇の俳優といふのはあまり例がないのではないだらうか。

 古屋を大陸に導いた軍人が安藤紀三郎(書中では喜三郎)。新民会の副会長で、古屋を新民会特別嘱託に採用。この縁で北京では中国の聾唖児童5人の耳が聞こえるやうに治療することができた。

 神戸で出会ったのが西村夫妻。かつて頭山翁と金玉均が会談した、西村旅館を経営してゐた。

西村旅館のご主人貫一氏は、神戸における名望家の御曹司で、旅館家業はもっぱらマサ子夫人にまかせきり、ご自分は蔵書の山がうづ高くつみ上った書斎に立てこもり、高雅な趣味生活にふけりながら、欲得はなれて他人の世話を背負いこむのがなによりの道楽、鋭い人物鑑定眼の所有者としての氏は、人の長所を生かし、適材を適所にあてこむことが三度の食事より好きという変り種。

戦災のため数寄をこらした西村旅館は跡形もなく灰燼に帰してしまったが、焼土の中から立ち上って『ヘチマくらぶ』を作り、あらゆる階層の人物、名士とツナガリを持ちながら、縦横に道楽の手を広げられた西村氏は、
「古屋さんのあの霊能力は天下一品だ。おれはどんな世話でもして、その力を思うぞんぶん発揮させてあげなければならない」
 と宣伝してくれる。

 ところが、中にはつながりのよく分らない人も出てくる。
 古屋は山中湖半で病臥してゐると、「さまざまの異象」に悩まされる。

すると見る間に、湖上に宏壮華麗な竜宮の館が大小三つ浮き上がり、中央の一番大きな館には、十二単衣を身にまとった竜女の私が陣どり、左側の館には、同じ竜女となった白蓮女史、右側には塩谷温博士夫人と令嬢博子さんがおさまり、やがて四竜女そろって鎌倉宮にのりこむと、私たちを迎えるため、数十名の若い美しい巫女たちが、左側は紅色、右側は純白の衣裳をつけて整列し、私どもの姿を見るや、謡曲『海士』の一曲を、玲瓏玉を振るがごとき声で吟じはじめた。スッと神前に歩みを進めた私は、地謡に合わせて舞い始めた。

 竜女といふのは頭は人間、胴体は魚の姿なのだといふ。