ラヂヲを聴くと気が狂ふ本尊美博士

 『ポンソンビ博士の真面目』読了。昭和33年に京都の本尊美記念会より刊行。本尊美利茶道は即ちポンソンビ・リチャードで、生粋の英国貴族。日本人より日本らしい暮らしをして、晩年は神社や皇室研究に没頭した。
 小泉八雲やモラエスよりも徹底した日本人ぶり。だがあまり知名度が無いのは、余りの反近代ぶり故か。青い眼の保田與重郎翁といふよりも、こちらの方が先達であるしそもそも碧眼かどうかわからない。
 序文の石川岩吉國學院大學長は、洋上で羽織袴の博士が古事類苑を読書して居たといふ。もう一人の序文は高原美忠八坂神社宮司
 前編は自身の論文で、王権神授説を闡明する「デモクラシィの誤謬」、洋風生活を難ずる「延喜に帰れ」など。
 後編は追想録で、徳重浅吉大谷大学教授、トーマスベイティ日本外務省顧問、山田新一郎賀茂別雷神社宮司、元秘書兼助手の佐藤芳二郎、成蹊中学卒業生で松平恒雄の息子の松平一郎の文章。
 佐藤の「本尊美先生の日常生活」が面白い。コーヒーは大嫌いで番茶が大好き。イギリスに帰る時も宇治のほうじ茶を持参して、ずっとそれを喫する。煙草は不二とやよひで、製造中止になる前に大量に買ひ込んでやはり亡くなるまでそればかり吹かした。

凡ゆるモダンなもの、あらゆる文明の利器という様なものには極度の嫌厭を有つていまして、そのアンチモダニズムの徹底振りには感心の外ありませぬ。今日でも英国へ参りました時は、自室に昔ながらの蠟燭を用い、殊にラジオは全然許しませぬ。ラジオを聴けば気狂になると、よく申していました。あるとき電話のことに就いて打診してみますと、「いや、ダメです。私は神代の生活をしているもので、何でも旧弊です。電話のようなモダンなものは大嫌いです。そんなものには一文も出しません。無料で架けて上げると云っても、私は断ります。とにかく自分の家には絶対に許しません」と。ときおり西洋音楽の放送が聞こえてくることがありますが、其の時の先生の怒り方はまた特別でありまして、「私は吐きたくなりました」と仰言るのが常でした。

 代りに尺八が大好き。コンクリの校舎を見ても吐きたくなる。犬の声を聞くと気狂ひになる。
 昭和の御大典では下駄を脱ぎ額突き土下座して奉迎した。昭和の高山彦九郎といふべきか。

 台湾にあった井上孚麿邸を譲り受け、避寒所にしたといふ。蔵書票も細密。