買はざるときは逆臣の如く‐皇室本の押売り

 『神廼道』(神廼道雑誌社)は齋藤襄吉が発行する神道新聞。
 大正五年十二月発行第64号に、杉浦鋼太郎国語伝習所主が「尊厳を笠に着る」を書いてゐる。内地から上海に諸商人が渡ったが、なかなか芳しくない。ところが神宮大麻を売る者は大人気で、みな十円は出した。中には数百円出した者もゐた。ところがその商売人はその金で妓楼で豪遊。居留民の話の種になってゐるといふ。上海の特殊事情もあらうが、現代では考へられない。 

 尤も此の配附人は伊勢神宮司庁より派遣されたる者ではないであらう。恐くは贋せ物ではあらうが、斯ういふやうに皇室に関連したる事柄を以て多分の金円を詐取するに至つては、寔に皇室に対して恐多い事と云はなければならない。
皇室に関する書物を出版して押し売りに来る者は尠くない。其れも甚だ杜撰の本が多い。而して彼等はフロツクコートを着し、意気揚々として人の家に入り込み若し買はざるときは逆臣の如くに言ひ罵るやうな有様である。
昨年の御大礼に際しても記念出版と云ふ名称の下に利益を得やうと図つた者が尠くなかつた。而かも其の発行所は何通信所とか、何興信所とか云ふので、一般人も其の事業を賛成した者が多かつた。而かも夫れ等の人々も皆帝室と云ふ意味合より止むを得ず加入したのであらう。今日出版される書物の中には随分天覧と書いてあるものがある。是も誠に恐多い事ではないか。今日では何でも帝室を笠に着る様な傾向が無いではない。それでは段々帝室の尊厳を汚すのみならず、遂には帝室を怨府たるに至らしむる様な事がありはしまいか。此の点に就いて少しく当局者も取締りの必要があるではないか。

こちらは平成の御世にも似たことがあるが、この時代からあったのか。

今日のは相当の教育を受けた者が皇室の御名の下に私利を得、私腹を満たさうと云ふのである斯かる行動に対しては当局者に於て是非十分に取り締つて貰ひたい。 

とあって、以下国学四大人も他からの義捐を受けず独立して活動したと説く。