第三国人に「覚悟シテイロ」と云はれた岸芳一記者

 

暴圧にも屈せぬ/記事に強い信念


 終戦直後の第三国人が猛威をふるったヤミ市全盛時代、ヤミ市一掃に乗り出した大阪の鈴木警視総監を第三国人が暗殺しようとして未遂に終った事件を岸記者がスクープしたときのことである。
 共同通信の記事は参考程度に取扱う朝日、毎日もこの記事は黙殺できず彼の記事を使った。果然第三国人は各社に押しかけ“取消し”を要求したが、各社は「共同通信の記事である」と突きはねたので、オハチは執筆者の岸記者に廻って来た。岸記者の担当してしている司法記者クラブ第三国人が押しかけ、五尺の短躯の彼を押しかこんで強談判三時間に及んだが、彼は「確信をもって書いた記事であり取り消す理由はない」の一点張りで頑張り通した。
 終戦以来暴威を逞しい(ママ)した第三国人も、岸記者の信念にはついに根負けして、「覚悟シテイロ」と凄文句を残して敗退した‐‐というケースはいかにも岸記者の人格を反映している。


 かういふ捨て台詞って本当に遣はれてゐたのか。高松荘司「名物記者シリーズ 歩く事件記者の聖像」『マスコミ春秋』創刊号(マスコミ春秋社、昭和34年4月20日発行)より。今は知らないが当時の共同にこんな記者が居た。見出しに「共同通信の至宝・岸芳一記者/岸さん知らぬはモグリ記者/」とある。

 この雑誌、目次頁にある口上がフルってゐる。

マスコミという現代の怪物が、何物の拘束も受けず、あらゆる触手を動かして、われわれの生活をふり廻している。この恐怖すべき威力と不思議な魅力を持つマスコミ、厚化粧の顔しか見せない怪物の素顔とその姿態にスポットをあてていこう。マスコミ春秋は、怪物マスコミの生態を覗かせるバックミラーである。