AC(公共広告機構)のCMで、あしなが育英会の広告を見た。ぽぽぽーんはインパクトが大きい割りに、今一何を訴へたいのかわからなかったが、こちらは遺児への支援を求めてゐるのだとわかる。
80年前にも、優しいあしながをぢさんがゐた。「大川周明顕彰会報」のNo9、平成元年11月1日発行のものに、沼波万里子さんが思ひ出を寄せてゐる。国文学者の沼波瓊音の息女の歌人である。5歳のときにご尊父を亡くされた。
そのため、思ひ出はたった二つである。一つは、
瓊音「何してる?」
万里子「鞠で遊んでるの」
瓊音「面白いか?」
万里子「面白い」
瓊音「さうか」
といふ会話で、父はそのまま書斎へ入ってしまった。
もう一つは、万里子さんがどこかの海岸で波を追ひかけてゐるのを、父がトランクに座って見守ってゐたことである。
得意げに話す少女の頭を、あしながをぢさんは優しく撫でた。それから万里子と華子の姉妹は、夕食にお呼ばれしたり、銀座で欲しいものを買ってもらったりした。これは昭和11年初めごろまで続いた。華子はのちに芸名を輝枝とし、世界名作劇場のアニメ「私のあしながをぢさん」に出演してゐる。
北一輝が処刑されてから、沼波姉妹があしながをぢさんに会ふことはなかった。