『みさを』(昭和2年6月号、第216号、陸海軍将校婦人会本部発行)より。
尾上金城神道大教院少教正が「建国の由来と神代女性の美徳」と題して、4月20日に本部例会で講演した。建国神話を説いて日本と日本民族の尊さを語り、
他の民族より超越した我々は、人格以上に高い階級に居るものとして、総てのレベルより一段上にでなければなりません。
そこで人格と其の上の神格との区別を説明するために乃木夫人の逸話が語られる。19歳の静子夫人が乃木大将と結婚したのが明治11年2月28日。結婚間もない頃と思はれるある夜。夫人が一人で留守を守ってゐると強盗が入った。
「お前は何者だ」
「何者だつて、夜る夜中他人の家へ無断で来れば云はずと知れた泥棒だ」
「さうか何が欲しいか」
「金が欲しい」
「何程欲しいのか」
「五百両欲しい」
「宜しい五百両上げませう、だがお前には良心があるか」
「冗談云つちゃいけねえ良心なんぞ在つて強盗には来られるものか」
「否確かに良心がある」
「どこにある」
「お前のからだに在る」
「いやない」
「なにある着物を脱いで御覧」
強盗は裸体となつて
「それ此の通り何もない」
「お前その前に締めて居るものを取つて御覧」
「之れは取れません」
「それ御らんなさい、そこに良心がある、まあ五百両持つてお出で」
…これが神格者の徳行とされたのです。そんな機関紙の誌名は『みさを』。いかすぜ。
泥棒は金遣ひが荒いので警察に捕まる。泥棒は強奪したと自白したが、乃木夫人は
「さう仰れば先夜見ず知らずの男が参つて五百両貸せと申しますから、夜中無断で斯様な事を申すのは、よくよく困つての事と存じまして貸し与へましたが別に返済を求める意もないのでその儘捨て置きました」
強盗は無罪になり、この出来事に感じて僧になり諸国を行脚。乃木夫妻が殉死すると墓守となり、先年死去したといふ。