大均一祭

 都内三ヶ所の古書会館ではほぼ毎週末、いづれかで古書の即売会を開催してゐます。ありふれた本は安く、貴重なものは高くなるので、古書の価格は新刊よりも幅が大きくなります。たいてい本の一番最後(裏表紙)を開くと右上に表示してあります。
 しかし半期に一度行はれる高円寺の大均一祭は、すべて値段が200円均一です。二日間開催され、二日目は100円均一に値下げされます。
  先ほども申しましたやうに、古書の値段は裏表紙を開かねばわからないことが多いのです。食品でも器物でも、普通はよく目立つところに値段を表示してありますが、古書は違ふのです。
 値段を縦書きにした紙を古書に巻きつけることもありますが、千円以上の比較的高価なケースが主で、高円寺会場では特に少ないのです。
 また古物ですから、同じ本でも状態の良し悪しによって値段が異なります。
 古書を買ふ時は値段を一冊づつ確認することが必要なのです。ところが均一展ではその行動が不要になるので、勝手が違ふのです。 

 そのため、棚から一冊本を取るたびに、「この本はいくらだらう→今日は均一なので一冊200円だ→明日は100円だ→でも明日また来るのは二度手間だ、そもそも明日まで売れ残ってゐるかわからない→買ふなら今日買はう」と思ふのです。
 本を取り出すたびにこの一連の連想をするのはどうかと思ひますが、値段を確かめるのがいつもの習慣なのでどうにもなりません。

 手荷物も普段は持ち込み不可で、係員に預けて番号札を受け取るのですが、均一展では各自自由に、まとめて置いておくだけです。盗難が不安な人は会場内に持ち込んでも構ひません。
 鞄を持った人が視界に入ると、心の中で「もしもし、鞄は入り口で預けるのですよ」と思って、そのすぐ後に「いや均一展だから鞄を持ってゐても良いのだ」と訂正する仕儀です。
 今日など、荷物を預けようとしたお客に、係員が「ああ置いておいてください、ご自由にお持ちしてもいいですよ」と言ひました。言はれた方は「ええ?っへへっへ?」とどぎまぎです。これは係員は「ご自分の荷物は他の荷物と一緒にまとめて入り口に置いておいてもよいし、そのまま荷物を持ったまま入場しても、どちらでもよいですよ」といふ意味です。
ところが言はれた方は、他人の荷物の山を目の前にして「ご自由にお持ちしてもよい」と聞こえたものですから、「他人の荷物を私が自由勝手に会場外に持ち出していいの?そんな訳はないでせう?」と思ってのどぎまぎなのです。
 もっとも、お客はこのやりとりをする数秒のうちに、正しい意味を把握して無事に入場しました。結局荷物は入り口に置いたやうです。
 大均一祭はいつもと勝手が違ふのです。