金谷真「建国祭の前に始国祭」

 『神武開国』は金谷真著、みそぎ会星座連盟発行、昭和32年1月初版発行。手元のものは43年1月発行。32ページの冊子。

 金谷はみそぎの大成者、川面凡児の弟子で伝記も書いてゐる。

「日本の国は建国したのではない開国したのである」といふ論文がこの冊子の主眼。一般に神武天皇が日本の国を建国したといはれてゐるが、それは不適切だ。神武天皇以前にニニギニミコトが天孫降臨し、以来代々日本に住まはれてゐた。日本書紀によれば天孫降臨から神武天皇まで179万2470余年といふとても永い年月がある。実に悠久なる時代である。

 神武天皇が日本を建国したとすると、この期間が日本の歴史ではなくなってしまふ。ちなみに神武天皇の父のウガヤフキアヘズノミコトの御代とされてゐる期間が長いのは、御一代と限らず代々同じ名前を受け継いだからである。その父のホホデミノミコト、ニニギノミコトも同様に数千年、数万年と何代も同じ名前を継承された。だから永い期間になったのだ、と説明される。九州に神の御陵があるのも統治の証拠だといふ。

 そこで神武天皇の建国祭を祝ふ前に、始国祭(ハツクニサイ)を祝ふべきだと主張する。ただし始国祭は3つある。1つ目は大宇宙の神様、アメノミナカヌシノカミを祭るもの。2つ目は地球そのもの、つまりクニノトコタチノカミを祭るもの。3つ目はイザナギイザナミが原人の始祖としてお生まれになり、五大洲をお開きになったことに対する祭り。

 よく読むと、この文章には肝心なことが書かれてゐない。始国祭はいったいいつ斎行すればよいのだらうか。以上挙げた神々の事跡には年月日が記されてゐない。そもそも時間が存在するのかもわからない。

 なほ川面凡児の言葉として「大古の日本は太平洋上の大陸であった」、そしてそれは海中に陥没してしまったのだとの主張を載せてゐる。川面もムー大陸論の信奉者だったのだらうか。

 

 

・『白装束集団を率いた女: 千乃裕子の生涯』金田直久、論創社発行、読む。一時期マスコミをにぎわせた白装束集団の内実と、彼らの中心にゐた千乃の軌跡を追った。千乃は左翼過激派からスカラー波攻撃を受けてゐると思ひ、車列を組ませてさまよってゐたといふ。千乃の愛読雑誌として『ムー』『正論』『ゼンボウ』が挙げられてゐる。共産主義の脅威を強く訴へたのは『ゼンボウ』が一番ではないか。駅のキヨスクでも売ってゐた。