10億年後の新聞の夢を見た大久保武

 『イン・プリント大正』は大久保武著、平成元年9月、近代文藝社。序文は祐乗坊宣明。表紙回りの装丁がお洒落。扉に曰く「太陽系の中の小さな星、地球の中のまた小さな島ニッポンに生れて、大正から昭和の四分の三世紀を生きた一庶民の生活軌跡」。

 大久保は大正元年生まれ。キネマ週報社、写真植字機研究所、共同広告事務所などで勤務した。第10章が8年間の上海時代。頭山秀三、平山周らがゐたと名前だけ出てくる。特務機関のグラフ雑誌にも携はる。ユダヤ人処理事務所の久保田勤は戦後、新橋駅前に日本リンカーン協会を設立。著者が事務所を提供した。写真を見ると、外壁のリンカーンの肖像と演説の一節が目立つ。

 奇怪な建築、二笑亭に興味を持ち、宮内庁から払ひ下げられた大手門の木材で、二笑亭を模した酒蔵を建てた。

 15章は年始のことば集。「十億年後の初夢」は10億年後の新聞の夢。セラミックのやうなもので出来、多色刷りでキラキラしてゐる。紙面には、10億年前の墓石が発掘されたといふ記事が載ってゐる。

まだニッポンという国の文字は十分解読されていない上に、墓石が強力な核破壊力の影響を受けていて、わずかに「ソウリ」と「タナカ」という二つの文字が判読出来るだけだと云う 

   紛ふことなくSFだ。著者は想像力豊かで、そのほかに日の丸の改良案のデザインも載せてゐる。