笹川良一「おかしな新聞だねえ」

 『宿命の子 笹川一族の神話』読む。三男の陽平から見た良一を描く。700頁もあって、削らうと思へば削れたのではないかと思ふが、難しい言葉はないのですらすら読める。最後の方はちょっと褒め過ぎなところもある。船舶振興会が軌道に乗ると、金塊引き揚げとか内紛とかで、有象無象が現れる。
 気づいたのは、143・698四天王延孝→四王天延孝、173との伝眼つたか→どの位眠つたか、194兵隊局長→兵務局長、204・209ウェップ裁判長(半濁点)→ウェッブ裁判長(濁点)、258水を張らさせない→水を張らせない、494ルビかやおきのぶ→ルビかやおきのり、494恥しい→恥ずかしい、650上水プラント→浄水プラント 
 四王天は知らないとわからないかもしれないが、伝眼つたか、では意味が通じないと思ふ。

 同書にもちょっと出てくる斎木勉が社長を務めたのが有朋社。『生活と思想』天下一家の会研究号は、有朋社デラックスシリーズ1とある。たしかに大判でカラー写真も多く、昔の図鑑みたいだ。非売品だが特別頒布価格3000円、昭和52年5月29日発行。
 53年10月、参議院の物価等対策特別委員会で社会党の村沢牧が、この機関誌を取り上げてネズミ講についての質疑を行ってゐる。
 はじめの鼎談を笹川・内村健一・鍋山貞親が行ってゐる。3人とも獄中経験がある。
 内村はマスコミ報道を批判。

彼らはものの五分か十分で取材をすませて、結果的には不正確な記事を送っています。それを受けたデスクが興味本位に、おもしろおかしくタイトルをつけますね。このため、記事もタイトルもトンチンカンに仕上がります。おかげで私はずいぶん迷惑を被ってきました。極端なことをいいますと、新聞記事は虚実とり混ぜてというより、虚々とりまぜて書いているとさえ思っているんですよ。

これを受けて笹川は「そんなもんでしょう、今のマスコミは」と同調。かへって発奮の材料になるとか、実は朝日にも寄付をしてゐるのだとか、あまり気にしてゐない風だ。 
 しかしやはり思ふところはあるやうで、あとの方では

どういうわけか、朝日新聞はぼくを嫌いでね。世のために一生けんめいやっている人を嫌うんだ。おかしな新聞だねえ。それでね、ソ連や中国、北鮮なんて国は広告出すわけでなし、購読するわけでなし、それなのにそういう国の機関紙みたようなことをする。

と不満げだ。
会の東京会館靖国神社の隣に出来上がり、地下二階、地上10階の大きさ。関連した座談会には池田良権宮司、中山恒明東京女子医大消化器センター名誉所長、西村展蔵の息子で財団法人天下一家の会事務局長の西村一生、斎木が参加してゐる。
 斎木の弟は終戦の日に戦死。鳥取の母は健在で、上京すると真っ先に靖国神社に参拝するのだといふ。池田権宮司は、いまのうちに経営基盤を安定させなければならないと、将来を危惧してゐる。
ジャーナリストの松本暁美は「西村展蔵と頭山満論」を書いてゐる。巻末の参考文献25冊中、頭山関係書が6冊を占めてゐるのはこのためだらう。その中に、頭山翁が「世界は一家」といふ発言があり、これを西村が受け継いだのが天下一家思想だといふ。