『傑作俱楽部』は双葉社発行、昭和40年4月号は第15巻第4号。全部読切なので、当時の会社員などがいろんな趣向の小説を楽しんだことだらう。たいていお色気の場面がある。
清水正二郎「拳銃姉妹」は香港が舞台。空港に降り立った女は別室に案内され、身体検査を受けさせられる。井上志摩夫「俺は江戸ッ子」(目次では江戸っ子)では長屋の貸本屋、金さんの元に突然、津山藩の家老の娘が許婚だといって現れる。
特集は「ぼんくら青春譜」。冴えない主人公が登場する。多岐流太郎「春姿隠密旅」はぼんくら忍者、猿渡りノ大吉が加賀藩が佐幕か勤皇かを探る旅に出る。島守俊夫「ハッタリ一代」の舞台は大正時代。与原庄助が上京し、東京湾の土地を購入。実家の仏壇から拝借してきた小判を利用して、「彰義隊の埋蔵金」を目当てに集まる金の亡者どもでぼろ儲けをする。
池澤伸介「万両肌」は目次にかうある。
信者争奪
寺と神道で、寺と神社でもなく仏教と神道でもなく、非対称だ。これには理由がある。この小説では旧来の寺院に対して新参者の神道一派がやってきて、信者を奪ってゆく筋立てだからだ。
時は江戸時代初めの天下泰平の時代。数年前に由比正雪が幕府を転覆しようとしたが露見して自刃してゐる。所は会津若松。主人公は小原屋庄助。番頭たちに任せた造り酒屋は大繁盛。毎日朝湯を楽しんでゐる。秀安寺は本堂改修の寄付を募ったが、小原屋は少ししか出さなかった。これは庄助に神道一派の手が伸びてゐるからではないだらうか。神道一派は最近殿さまに取り入り、城下に守護神社を建てようとし、商家には熱心に入信を勧めてゐる。深念和尚は心配でならない。
「…三百年の由縁ある当山が、昨日今日の他所者の神道者に信者を奪われるようなことがあってはそれこそ何もかもお釈迦じゃ」
和尚の懸念は杞憂ではなかった。庄助の浴室には、神道一派の巫女が一糸まとはぬ姿で忍び込んでゐた。巫女はある密命を帯びて庄助に近づかうとしてゐた。神道一派を率ゐるのは吾妻近江と名乗る人物。いつも恐ろし気な覆面と黒頭巾で面貌を隠してゐる。
陰謀をたくらむ神道一派!! 卑怯な神道一派!! 吾妻近江の正体は一体誰なのか!? そして小原屋庄助の運命や如何に!?