ルーズベルトを祈り殺した右近汎淡

 『日本成仏』は静岡県磐田郡の浜部寿次が私家版で発行したもの。手元の第三版は昭和45年8月19日発行。元三菱重工技師で、平和論とか新発明とか、スケールの大きな話柄を記してゐる。いはゆるトンデモ本で、通読するのは骨が折れる。そんな中に埋もれてゐるのがこれ。

 日本に右近汎淡なる国粋主義者があった。敗戦酣はなる頃、「ルーズベルトを祈り殺す」といつて、滝に篭り神に祈つた。ポックリ大統領が死亡した。人を殺して自分も生きていてはすまぬと切腹自殺した。その未亡人は今でも、琴の師匠をしている。
 祈りと死亡には何の因果関係もないのは明白である。しかし自から「祈り殺した」という信念に至つては、実に根深いもののある事を見よ。日本を愛する人士の心底には皆この信念が潜在している。これは歴史三千年、あるいはそれ以前の長年月の間に培われたものである。

 この右近汎淡は何者であらう、著者と同じ静岡の人であらうか。
 紙片が挟まれてゐて、茶色の罫で左上に「レファレンス受理メモ」と印刷されてゐる。右下には「国立国会図書館 調査立法考査局」。八割くらゐのスペースが「調査項目」の欄で、手書きで「浜部様が持参されました」と書き込まれてゐる。著者本人が持ち込んだやうだが、国会に所蔵がある。複本なのであらうか。