藤本太太也「唯一陛下だけがその責任が存在しないのである」

 『形而上学的右翼の考察』は藤本太太也著、日本民族思想研究所発行、序文の日付は平成5年7月。無定価とある。

 著者が右翼の精神について、自分の思ふところを論じたもの。目次も章立てもなく、話題を変へるときは1行空白をあける体裁。序文は「人間の生きる目的。それはいったいいかなるものであろうか」で始まる。突飛な持論があって思はず頬が緩んでしまった箇所もあるが、自前で考へる思索の姿勢は馬鹿にできない。難しい用語も出てこない。

 著者は昭和40年3月生まれ。教師への反抗心から、日教組を糾弾する右翼の道に入ることになる。天皇の戦争責任追及論については、次のやうに反論する。

 

 もしかつての戦争の責任が誰かに存在するのであれば、それは天皇陛下以外の全ての日本国民に存在するのであり、唯一陛下だけがその責任が存在しないのである。

 なぜなら陛下は軍上層部とそれの宣伝によって盛り上がった国民の開戦意識状態の中で、その御立場上やむにやまれぬ思いで開戦のご決断をなされたのである。

 従って第二次大戦に於ける唯一の犠牲者が陛下であり、その責任は陛下以外の国民全体に存するのである。(略)

 だから天皇陛下に対して不埒なことを発言するヤツは、かたっぱしから抹殺していっても仏は許されるのではないかと思える今日である。

 

  「仏は許されるのではないか」といふのは深い意味がある。著者は、右翼は仏法を学ぶべきだと主張する仏教者で、世界を創造した大日如来=天御中主を信仰する本地垂迹説に立つ。天御中主は天皇陛下と皇族に特殊な気のエネルギーをお与へになった。このエネルギーがあるから人類は生きることができる。

 人間の精神力を重視する著者は、いづれ人間は空中飛行ができるやうになると確信する。

 

 なぜこの宇宙空間が無限の広さをもって広がっているのかと言うことも、人間が人類から神類となって空中を飛行出来得るようになった時、今の地球の空間だけではせまくなるので、その時の為に大日如来が大宇宙空間を創造されたとも考えられるのであり、私はそのように確信している。

 先にも言ったが、北一輝は人類が神類になると肉体もが不死不滅となり又排泄行為がなくなり、性行為をしなくても子供が創ることが出来ると言っている。

 私はそれはそれで良いと思っている。

 

  話題はそのほかにも読書論、教育論、ユダヤ論、少年刑務所のことなど多岐にわたる。いづれにも著者の体験や持論が述べられ、奇妙な魅力がある。テレビは俗悪だといって否定的だが、水戸黄門だけは激賞。「原作、脚本のなんとすごいこと」「もしやコウモン様の生まれ変わりでは」。トラブルがあったら、水戸黄門の原作者、脚本家に相談すればいいと、絶大な信頼を寄せる。

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