「国民の良識」は決して眠れる獅子ではない

 『皇室をお護りするために』は、皇室の尊厳をお護りする請願運動全国連絡協議会の編集・発行。昭和36年9月15日初版、11月15日再版。

 まえがきに発行の趣旨が述べられる。昭和35年12月、「わが国における代表的な総合雑誌」である中央公論に、深沢七郎「風流夢譚」が掲載された。

天皇陛下をはじめ皇室の方々をつぎつぎに惨殺するという、陰惨きわまりない情景を、なんの憚かるところもなく露骨に描写した、言語道断の文章である。 

 しかも同様の作品や評論が相次いで公表され、皇室侮蔑の風潮を醸成しようとされてゐる。これに反発する国民の間で、皇室の尊厳をお護りする法律の制定請願運動が盛り上がり、2か月で150万の署名を得た。 この冊子では3章構成で「恐るべき皇室侮蔑の風潮」「皇室と国民」「皇室をお護りするための新立法」について解説する。

 実は「風流夢譚」は氷山の一角で、他にも井上光晴天皇地獄の六〇六号」、雑誌『教師の文芸』掲載の「御璽」「非行少年」などの作品、『近代文学』『読書新聞』『新聞研究』などの評論にも、皇室の尊厳を傷つけるものがあった。

 これら知識人の文章とは対照的に、新聞の投書には皇室擁護のものもあると紹介されてゐる。地方紙のものが多い。「小生も国民の一人として義憤の感を禁じ得ない」(長崎新聞)「『象徴侮辱罪』の法制化はむしろ遅すぎ」(西日本新聞)。

 池田勇人首相は36年4月29日、談話を発表し、このやうな問題は国民の良識に待つもので、告訴などの対応を行はないとした。冊子の著者は、皇室侮蔑の風潮は今後拡大されようとしてゐると警鐘を鳴らす。

天皇と皇室を敬愛してやまないわれわれは、決してその矛先をゆるめてはならない。「国民の良識」は決して眠れる獅子ではない、というあかしを立てるためにも。

 第三章では、占領下で不敬罪の条文が削除された経緯、諸外国の「国家存立に対する罪」の条文を解説。過去の反省から、日記に不敬なことを記しただけでは罪にならないやうにする「公然性」を明記するなど、新立法の具体策を検討してゐる。

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